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それなら、心当たりがありますよ
『中古玩具の買い取り・販売いたします』
そう書かれた看板を見つけ店内に入ってみると、店主らしき肥満体の男が、長髪を茶色く染めた若い男に向けて、首を左右に振ってみせているところだった。
「宇宙麒麟児ラマルキアン二十周年記念の限定フィギュアなんてそんなレア物、さすがに売りに来た人はいないですよ」
「そうですか……」
長髪の若い男は残念そうに呟いたが、同時に、元々大して期待していなかったように見える表情をしていた。
そんな俺の予想を裏付けるように、俺の横を通って出口へと向かう途中、彼は「ここも駄目か。まあ、こんなしけた店じゃあな」と毒づいた。
俺は鞄を開くと、その中に入れてある箱に目を向ける。
『宇宙麒麟児ラマルキアン二十周年記念 限定フィギュア』
箱には、そう記されている。
どうやら、あの長髪男が欲しがっているまさにその品で間違いないようだ。『限定』とつけられているくらいだから、そこそこの値段で買い取ってもらえるだろうと踏んでここに持ち込んだのだが、先ほどの二人の会話から判断すると思っていた以上にレア物なようだ。
欲しがる人間がいるのなら、店を間に挟むより直接売った方がいろいろと都合が良いかもしれない。
そう考えた俺は長髪男の後を追って店を出ると、彼を呼び止めた。
「すみません、もしかして宇宙麒麟児ラマルキアンの二十周年記念フィギュアをお探しですか?」
「そうですけど、それが何か?」
長髪男は、不審を隠そうともしない。
しかし俺が、「それなら、心当たりがありますよ」と言って鞄の中身を見せると、その表情は一変した。
「これ! これですよ、オレが欲しかったの! わざわざ俺を呼び止めて見せたってことは、売るつもりがあるんですよね? いくらです? いくらで売ってくれます!?」
「むしろあなたは、いくらなら出せそうですか?」
勢い込んで尋ねる長髪男にそう聞き返すと、長髪男はフィギュアの箱を矯めつ眇めつして傷などが無いか確認した後、「三万円でどうでしょう?」とまず答えた。しかし俺が黙っていると、慌てたように「すみません、三万円は渋りすぎました。五万、五万出します。それで売ってくれますか?」と買い取り価格を上げてきた。
正直なところ俺はこんな玩具などせいぜい数千円程度だろうと予想していたので、五万どころか三万でも十分だと感じたのだが、長髪男のこの様子から考えるに、頑張ればもう少し値を吊り上げることもできそうだった。
しかしあまり欲をかきすぎて、商談が流れてしまってもつまらない。元々これは、ちょっとした足しになれば良いと思っていた程度のものだ。
俺は、五万で手を打つことにした。
「分かりました。それでは、五万円でお譲りいたします」
「ありがとう……ありがとうございます!」
長髪男は、おおげさに礼を言って去って行った。やっぱりもう少し値を吊り上げておけば良かったかもしれない、と俺は思った。
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