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初恋
山本静香はいつも回りに気を遣っている。
静香の淡い初恋の思い出。
小学校の下校後、塾のない日は家から走って五分の公園で遊ぶ。当時仲良しの同級生ミチルと、ミチルの幼馴染みの春菜と三人で夕焼けチャイムがなるまで遊んだ。
ある日の夕暮れ間近。
「静ちゃん好きな人いる?」
突然ミチルから聞かれた。
急な話だったが、静香の脳裏にパッと思い浮かんだのはクラスメートの男の子。スラリと背が高くて目がクリクリして睫毛の長く優しい稲垣君。
静香は、ドキドキしながらコクンと頷いた。
「うそぉ誰々、教えて教えて」
春菜が興奮気味に聞いてくる。ミチルは春菜を落ち着かせ静香を見ると、
「じゃあさ、ここにアルファベットを掘って? 私も教えるから」
ミチルが笑っている。その時、静香の考えは及ばなかったが、今思えばミチルの好きな人を教えたかった恋バナあるあるだったのかもしれない。
ミチルと並んで春菜までベンチの横の土にイニシャルを掘りはじめた。静香も恥ずかしさを堪えながら稲垣君を思い浮かべイニシャルを掘った。
「ミチルの好きな人ってぇ、稲垣だよね?」
春菜がミチルの掘った場所を上からなぞっている。
「あっ春菜ったらもぉ、何で言うのよ!」
言葉とは裏腹にミチルが頬を赤く染め照れている。
静香は内心呆然とした。よりにもよってミチルと同じ人だなんて絶体絶命の大ピンチ。
春菜が静香の掘った場所を触っている。
「あれ? 静ちゃんのこれって」
「い、井上君」
静香は必死に同じイニシャルの男の子の名前を言った。稲垣君とは似ても似つかない全くの正反対で背が低く性格もキツい男の子だった。
「えぇ? 静ちゃん井上のどこがいいの?」
「何やってんだお前らー」
運良くクラスメートのヤンチャな男子が声をかけてきた。三人とも話しに夢中で近くまで来てる事に気付かなかったのだ。
「何でもない!」
「男子は向こう行って!」
ミチルと春菜が口々に叫ぶ。
その後どうなったのか静香は覚えていない。その時はただ、バレてはいけない、ミチルと同じ人を好きになってはいけないと心に鍵をかけた事だけ覚えている。
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