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この頃、残業続きで僕は酷く疲れていた。眠い目を擦りながら、早く帰りたくてアクセルを強く踏み込む。このあたりは民家も少ない一本道で、いけないと思いながらも、ついスピードを出してしまう場所だった。
いつも通る古びた神社の前を通りかかったとき、突然目の前に何かが飛び出してきて、慌ててブレーキを踏んだ。
キキー
耳をつんざくような音が、静けさの中に響き渡る。咄嗟に閉じてしまった目をゆっくり開けると、車の前にはキツネの姿があった。
「あぁ、無事でよかった」
心から安堵したら、思い出したようにどっと疲れが押し寄せてくる。キツネは早く通り過ぎたらいいのに、しばらく僕のほうをじっと見ている。細い道なのでどいてくれないと車を発進することができなくて、ハイビームを数回点滅させた。すると、頭を前後に振って、大きな尻尾を申し訳なさそうに下げて去って行った。
その仕草が、なんだかぺこぺことお辞儀をしたように見えて、お礼をしてくれたのかななんて思ってほっこりした。
それからも忙しい日が続き、そんな出来事なんてすっかり忘れてしまっていた。
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