18人が本棚に入れています
本棚に追加
国立大の受験日当日。
親父から借りた腕時計には
文字盤の裏にオカンの誕生日と
オカンのイニシャルが刻まれている。
結婚前にプレゼントしようとしたら
某ブランドの偽物やと指摘されて
オカンに返されたらしい。
捨てればええのに……と思ったけど
せっかく電池を入れて動かしてくれたし
ユニセックスなデザインの時計を腕に巻いた。
家を出ようとした時、急激な腹痛に襲われた。
ギリギリまでトイレに籠った後
薬を飲んで家を飛び出した。
駅から試験会場まで徒歩二十分。
走った方がええな。
幸い腹痛は治まってる。
最後の曲がり角を曲がって
チラッと腕時計を見ると
もう結構ええ時間やなと思った。
大学の正門を通り過ぎて
受験生たちをすり抜けながら
道の真ん中を歩いている子を
追い抜こうとした時。
強い風が吹いた。
長い髪を避けようとした瞬間
目の前の子が立ち止まった。
「ぉわっ、ごめんっ!」
避けきれずにぶつかった。
転びそうになった子に
反射的に手を差し出すと
その腕を掴まれた。
「ごっ、ごめんなさい!」
突き飛ばされるように
腕を離されたはずみで軽くよろけた。
俺の右の足元で
パキッ!
何かが割れる音がした。
最初のコメントを投稿しよう!