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小早川菜々5歳と寧々4歳は、前日までに何度も妹の野々3歳に言い聞かせていた。
「のの、お友だちのまねをちゃんとしてね」
「うん。ななちゃん、わかった」
「ほんとうに、おねがいよ」
「うん。ねねちゃん、だいじょぶ」
小早川財閥の長女と次女である菜々と寧々は、生まれた時から内外の大人に甘やかされとても我が儘に育っていた。決して悪い子ではない。生まれもってのお嬢様気質と小さいながらに小早川財閥の名に恥じぬようと心掛けてきたせいで余計に周りの大人が彼女たちに取り入ろうと、へつらい媚びた結果の我が儘だ。
二人の様子を見て案じた父親は予定より早く彼女たちを幼稚園に通わせた。するとそこで二人は生まれた時からの英才教育の成果を存分に発揮する。何をしても万能な才能を見せ、人一倍上手に歌い踊り、完成された絵を描く。通う園では園児数が少ないため3学年揃って行う行事がほとんどで、さすが小早川財閥のお嬢様、小早川姉妹は素晴らしいと大人子どもに関わらず声を揃えた。
園での出来事を二人から毎日聞くようになった末娘、野々はまだ3歳の誕生日を迎える前に
「のの、よーちぇんいく」
が口癖となった。しかし菜々、寧々と全く違う気質の、とても子どもらしいと言えば子どもらしい幼い野々に集団生活など無理だと誰もが取り合わなかった。菜々、寧々は4月生まれだが野々は1月末生まれというのも大人が入園に否定的な一因かもしれない。性格はおっとりした子だが逃げ足だけは早く小早川の英才教育を無視した末娘。
小早川の使用人は、菜々と寧々を“カトレア”華やかで美しい花·艶やかな花言葉を持つランの女王にたとえ、野々を名前通り野に咲く“レンゲソウ”にたとえた。レンゲソウの花言葉は心が和らぐだ。
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