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数日前に近所で祭りがあることを知った真尋はすぐにスケジュールをチェックし、カレンダーへ勝手に浴衣デートなんて書き込んでいた。
人ごみは苦手であまり気乗りしなかったけれど、愉しそうにしている姿を見ていたら、行ってやるかという気分になる。
ここのところ忙しかったから息抜きになって良いだろう。
「うわ..っ?! どうした?」
「髪型セットしてあげる!」
「や、そのままでも..」
「いーから座って!」
ささっと浴衣の着付けを終え、出掛ける前に一服しようとベランダの窓に手を掛けた刹那、真尋が背後からダイブしてきた。
驚いて振り返ると、俺の髪をセットすると言い出したのだ。
やんわり否定するも、どうやら拒否権はないようで、肩を押さえ込まれ強制的に座らされてしまう。
前髪が目に掛かっていないとソワソワして本当は嫌なのだけれど、自信満々な顔がなんだか可笑しくて、抵抗する気がすっかり失せてしまった。
そんな張本人はというと、ふわりとしたボブをひとつに結わいている。
白っぽい髪色のせいか、綿菓子に似ていて美味しそうだ。
よく見るとヘアゴムに金魚らしき飾りが付いている。
今日の為にわざわざ用意しておいたのだろうなと思うと、愛おしくて仕方がない。
「よし、完成!満足!」
「はは..そりゃ良かった。」
漸く終わったようで、手鏡を此方に向けてにへらと笑う。
お洒落な七三分け、という感じだろうか。
普段こんなにキッチリとセットすることがないから新鮮ではある。
とはいえ、やっぱり前髪がないと落ち着かない。
苦笑いを浮かべる俺とは裏腹に、真尋はご満悦のようだ。
「暗くなってきたね。そろそろ行こう!あ、煙草吸ってからにする?」
「いや、大丈夫。行くか。」
立ち上がって煙草の箱をテーブルに置き、巾着袋に財布とスマホだけを入れる。
暑いだろうから団扇も持っていこうか迷ったけれど、荷物になるから止めておこう。
機嫌良く鼻唄を歌いながら先にパタパタと玄関へと駆けていく真尋の後ろ姿を追って外に出た。
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