第21章 三年次・12月

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 何を答えることもできないまま、高志は茂の体から伝わってくる温かさだけを感じていた。茂の言葉は耳に入っていたが、言葉だけが上滑りして、意味を理解するのに時間を要した。自分のすぐそばから、茂の小さな嗚咽が聞こえてくる。その度に肩が小さく震える。過去が上手く繋がらなくなって、突然この暗闇の中に放り込まれたような錯覚がする。自分の感情も上手く把握できなかった。何を言い何をすればよいのか全く分からなかった。  そして、茂が言葉にしなかったその自分に対する気持ちを、高志は知った。  何をすることもできない高志にできることは、何もしないことだけだった。茂が自分にしがみついて泣く、そのあるがままに任せた。茂の息遣いと震えを感じながら、それらが徐々に落ち着いてくるまでの長い時間を、高志はただ待った。そして茂がもう一度何か言葉を発するのを待った。  どれくらい時間が経ったか分からない頃、茂が身じろぎし、腕で涙を拭う気配がした。 「……藤代」  落ち着きを取り戻した静かな声が聞こえてくる。  高志が答えないうちに、首に回した腕に力を込めて、茂は高志を抱き締めた。それから高志の首筋に茂の唇が触れた。高志がかすかに身をよじると、茂の腕が離れ、代わりに両の手のひらの温もりが高志の両耳をすくい上げるように覆う。そして、それだけはよく知った感触が高志の唇に与えられた。少しずつ与えられるそれを妙な懐かしさと共に迎えながら、高志は目を閉じた。初めのうちはただ受けるだけでいたのに、いつの間にかごく自然に高志もキスを返していた。今までにないほど長い時間、茂は高志の唇を求めた。  キスならいくらでもしてやるのに、と高志はぼんやりと思った。  自分との友情を捨ててまで、茂は何を欲しいと思ったのだろう。高志とのセックスに、それと引き換えにするだけの価値があると思ったのか。友情よりも大事な何かが、キスだけでは足りない何かが、この男の体にあると思ったのか。それは自分を求めているのか、それとも切り捨てたのか、どちらなのか高志には分からなかった。  それから茂は、高志のアンダーシャツをたくし上げ、脱がせようとした。その思いがけない力強さに、高志は、目の前の影は男なのだとあらためて実感した。シャツを首から抜き、高志の上半身があらわになると、茂が高志の体にゆっくりと力を掛けてくる。高志はされるがままに仰向けに横たわった。高志の両肩を上から押さえて、茂が高志の顔を覗き込む気配がする。表情はよく見えない。向こうからこちらが見えているのかも分からない。  しばらく高志を見下ろした後、茂は体を離した。それからすぐに下半身も脱がされて、高志は全裸になった。目的地までの最短距離を進むかのように、茂は迷いなく高志のそこに刺激を与え始める。頭の中が冷めきっているのと裏腹に、そこは徐々に熱を帯び始めた。どうして自分はされるがままなのだろう、と思いながら、何故か体は動かなかった。高志は再び目を閉じた。
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