171人が本棚に入れています
本棚に追加
つらつらと考えていると、あかりから声を掛けられる。
「藤代くん」
「ん?」
「……さっきの話、半年後くらいでもいいですか」
「どの話?」
「連絡先の話です」
あかりが顔を上げる。普段の表情に戻っている。今からのことを考えて動揺しているのかとばかり思っていたら、全く別の、茂と自分のことを考えていたと知り、高志はあかりの顔を見つめる。
「もっと早く、多分年度内に細谷くんは連絡をくれると思いますけど。半年後なら、お二人の気持ちも落ち着いて、新しい生活にも慣れている頃だと思うので」
「……待った方がいいって矢野さんは思うの」
高志が聞き返すと、あかりは頷いた。
「細谷くんも理由があって連絡先を変えたのでしょうし。それを私が邪魔してしまうのも違うのではないかと思って……少し時間をおいた方がいいかもしれません」
「……うん」
「ただ、もしかしたらその頃には、藤代くんの方でも気が変わっているかもしれませんが」
そんなことはない、と言い掛けた言葉は、しかし口からは出ないままに消えた。時間の経過が及ぼす効果を、高志はもう知っていた。半年経てば、茂ですら過去の思い出になるのだろうか。それならいっそその方がいいのかもしれない。この執着が消えて、楽になっているのなら。
「だから、もし半年後にまだ知りたいと藤代くんが思っていたら、連絡してください。その時は必ずお伝えします」
今連絡しても、きっと茂は受け入れられない。今すぐ茂に会いたいと思うのは高志の勝手な思いだった。茂にとっては辛過ぎて切り捨てるしかなかった、今のままの関係なら、消えてしまう方がいいのかもしれない。
でももし、半年経ってもやっぱり茂に会いたいと思えていたら。その頃には茂の気持ちにも整理がついていて、また笑って高志のことを受け入れてくれるだろうか。また二人で新しい友人関係を築くことができるだろうか。
「分かった。そうするよ」
高志がそう言うと、あかりは頷き、そして笑い出した。
「ふふ。細谷くんの言ってたこと、半分当たって半分外れましたね」
「え?」
「藤代くんが引き受けてくれたのは当たり。でも理由は外れ」
何故か嬉しそうに、あかりは続ける。
「ただ優しいからというより、細谷くんのためでしたね。引き受けてくれたのは」
「……」
高志が何と答えるべきか迷っていると、あかりは、「じゃあ、連絡先を交換しましょう」と言った。あかりは既にスマホを手にしているので、高志も取り出す。ラインを交換した後、念のためお互いの電話番号も送信しておく。
「では、半年経っても必要だったら連絡してくださいね」
「分かった。6月な」
「はい。上手く連絡が取れるといいですね」
個人的には番号が役に立つ方が嬉しいです、と笑いながら言うあかりに、高志も自然と顔が綻んだ。そして穏やかな気持ちで言葉をかける。心からの感謝の言葉を。
「俺もそう思う。……ありがとう」
(完)
最初のコメントを投稿しよう!