華葬

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座り込んだままの俺を置いて彼が去った後、気が緩んだせいか頭がぼんやりとしてくる。 急にぽつりぽつりと降り出した雨に打たれながら、それでもなんとか壁を支えに立ち上がると、上着のフードで顔を隠し上手く動かない身体でのそのそと歩き始めた。 向かう先は、此処からちょっと行ったところにある凛太朗の眠る場所。 葬儀で初めて顔を合わせ、ほんの少し会話をしただけだったけれど、凛太朗の母親が暫くして連絡をくれたのだ。 「っ、ごほ..ッげほ..!」 ぎゅっと内臓が締め付けられるように痛み、咄嗟に口元を押えた指の隙間からポタポタと血が滴り落ちる。 そう遠くないのに、早く逢いたいのに、身体がいうことを聞いてくれず、なかなか進むことが出来ない。 タクシーを拾えば良いのだけれど、こんな顔では怯えさせてしまうし、何より雨でびしょ濡れで、きっと乗せてはくれないだろう。 「..りん、たろ..」 やっとの思いで墓地に到着すると、凛太朗の元へ向かった。 激しく痛む身体は限界で、足元が覚束ず何度も転びそうになる。 いつの間にか右の眼からは重みを感じていて、ついに蕾が完成したのだと気付く。 それでもどうにか前まで辿り着くと、安心してそのまま膝から崩れ落ちた。 もうとても起き上がれそうになく、濡れた地面に倒れ込んだまま名前を呼んだ。 此処からでは手を伸ばしたって、墓石に触れることも叶わない。 「..俺ね..凛、太朗を..愛せ、て..幸せ、だった..」 意識は曖昧で、上手く呼吸も出来ない中、それでも必死に言葉を紡いだ。 聞こえるはずのない、ただの自己満足の独り言。 逢いに来て欲しいのは、愛されたかったのは、俺じゃなくて彼だと分かっている。 あんな風に凛太朗を貶すような奴でも、俺より求められていた。 なんて惨めだろう、そう思いながら未だ降りやまない雨の音に負けてしまいそうな程に弱く掠れた声で笑う。 「..ごめ、んね..っ、あの人を..連れ、て..これ..なくて..」 もう俺に言えることなんて、このくらいしか残っていない。 ただ寂しくて、哀しくて、本当はずっと一番に愛されたかったのだと、今になって気付いた。 どうかせめて最期の眠りに就いたなら、凛太朗に誰よりも愛される夢を見せて。 瞼を閉じると同時に、左目から涙がすーっと伝った。 そして右の眼で大きく膨らんだ蕾が、ふっと花を開いた。 ーーー二人お揃いの鮮やかで美しい花を。
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