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…………………
やばいやばいやばいっ。
震える体を奮い立たせて、無理やり手足を動かす。
早く風紀に知らせにいかなきゃいけないのに…!と無駄に広い校舎に恨みを積もらしながら。
優しく僕の背中を撫でてくれた彼に、怪我をさせたくない。
こんなに本気で走ったのはいつぶりだろうか、見えてきた風紀室に急いで駆け込んだ。
「はぁっ、はぁっ、っ…助けて!し、四川くんがっ、はぁっ、はぁっ」
「大丈夫、一旦落ち着こうぜ。安心してくれ、なんたって俺たちは風紀だからな!」
白い歯を見せてキラーンと効果音が出そうな笑顔の彼は…、たしか同じ学年の佐々木原くんだっけ。
呼吸を整えてから事情を説明すると、佐々木原くんは一瞬だけ真顔になって、またすぐ爽やかスマイルにもどった。
「ありがとな!君に怪我がないかも確認したいから、あとは俺たちに任せてくれ」
ぽんぽんと頭を撫でてくる佐々木原くんの手を振り払う。
「いやだっ!!僕だってついていくよ!!助けてもらったんだ、僕には最後まで見届ける義務がある!!」
目を逸らさずにじっと見つめると、やがて根負けしたのかはあ、とため息をつかれた。
「気をつけろよ」
***
僕は甘かった。
現場までもどると、声が出ないほど酷い有り様だった。
さっきまで僕を犯そうとしていた奴らは床に倒れていてピクリとも動かない。
赤く染まった彼だけが、ただ呆然と立っていた。
「四川」
佐々木原くんが声をかけると、彼はこちらに視線を寄越した。
佐々木原くんの後ろにいた僕は、ばっちり目が合ってしまって思わず「ひっ」と情けない声が漏れた。
ちがう。だってさっき四川くんは僕を助けてくれた。優しい人だ。
だからちがう。こわくなんて、ない。
彼の目にふと光が宿った。
「……あー、俺またトんでました?」
「たぶんな。やりすぎだよバカ」
「スンマセン」
四川くんは片手でぐしゃぐしゃと頭を掻きむしった。
「手に血がついてるから汚れちゃうよ…」
ぽろり。思わず心の声がこぼれてしまう。
また、彼と目が合う。彼は唇で薄く笑った。
「すみませんね、あんたも。怖いところ見せちゃって」
「ちがうのっ!僕が勝手に君を心配でついてきただけ!…僕こそ、ごめん」
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