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中庭は意外と穴場である。
なんといっても自然が壮大(笑)すぎて、人が寄りつけないからだ。
木に寄りかかって座る。
まだ6月半ばだって言うのにセミが鳴いている。
……あーあ、俺何やってんだろ。
失望、されちゃうな。でも、体が疼いてしまうんだ。
止められない己の欲望に嫌気がさす。
膝に顔を埋める。
怖い思いをしたにも関わらずわざわざ戻ってきてくれたあの人にもちゃんと謝らなきゃ。突き放してしまうようなことを言ってしまった。
佐々木原先輩にも謝らなきゃいけない。
俺がやったっていうのに、後始末をやらせてしまった。誰だってあんな惨い現場に立ち会いたくないだろうに。
きっとあの人のことだから、爽やかに笑ってくれるんだろうけど。
あとは、慎ちゃんにも。
夕飯作らなくてごめんって。
あとは……。
「俺、謝ることがいっぱいだなあ…」
ははっ、と乾いた笑いが出てしまう。
「俺にも謝ることがたァんとあるよなあ?」
吃驚して顔を上げると、煌さんが上から覗き込んでいた。
「なんで……」
「ったく、こんな所でメソメソしてたって蚊に刺されるだけだろうが」
もうちょっとそっち寄れ、と体を押される。
ぽすん、と煌さんは俺の隣に腰を下ろした。
「おら、続けろよ」
「いや強引すぎますって…」
本当にこの人、調子狂う…。
「佐々木原から聞いたぞ。また血の海にしたらしいな」
「もうちょっと言い方オブラートに包んでくれません?」
「そうやって喧嘩をしてハイになるのもいいがな、」
「いやだから言い方」
「お前、忘れてんじゃねーぞ」
後頭部に手が回されて、強制的に煌さんと向かい合う形になる。
肩が触れるほど近くにいたから、向かい合ったら想像以上に距離が近い。まるでキスができるくらいに。
「お前は俺に一生縛られてればいいんだよ」
「……出た、煌さんの横暴野郎」
む、と唇を尖らすと煌さんは俺の額を軽く小突いた。地味に痛い。
「帰んぞ」
急に立ち上がったかと思えばさっさと行ってしまった。
全く煌さんは。と思う反面、わざわざこうして俺を探しに来てくれたことを嬉しく思う。
煌さんは、面倒くさがりだから。自分から動くことは滅多にない。
そんな煌さんが、汗をかいてまで俺の元に来てくれたんだ。
「煌さん待ってくださーい!」
案の定、何ヶ所も蚊に刺されていた。
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