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次の日、昼休みになんとか皆月太陽を見つけた俺は、全速力で猫を追いかけるその人間を必死に追っていた。
「おわっ、待て猫!」
猫にかなうわけないだろうが馬鹿め!
少しもスピードを落とさない様子から、なるほどだから行動範囲が異常に広いのだなと認識した。
にしてもすばしっこいな、皆月太陽!!
気配を隠すのもとうにやめて全力で追いかけているが、いっこうに距離は縮まらない。
中庭までくると、ふと猫が動きをとめた。さすがの奴も苦しかったのか息を荒くしながら猫にじりじりと近づいている。
俺も呼吸を整えながら、その様子を伺う。
ぺろぺろと毛繕いをし始めた猫を見て、奴は姿勢を低く構えた。
あ、ばか。
そう呟いたときには、時すでに遅し。
皆月太陽は猫に勢いよく飛びかかったが華麗に避けられ、顔面から地面に突っ込んだ。
ずしゃああ、といやな音が響いた。
何秒たったのだろう。奴はしばらく動かなかった。
追いかけていた猫も姿を消してしまった。
共に追いかけていたから奴に同情の念を抱く。奴の前にしゃがんだ。
「その…、大丈夫か?」
「……。あんたもずっと、あの獲物のこと追いかけてたよな」
「獲物?いや俺はあの猫じゃなくてお前のことを……。とりあえず、起き上がれるか?」
こちらを見上げてくる表情は眼鏡と前髪でよく分からないが、右手を差し出す。
「ほら、眼鏡も土で汚れているじゃないか。これで拭け」
「助かるぜ、ありがとよ」
そう言って奴は眼鏡を外し、渡した手ぬぐいで汚れを落とし始めた。
性格とは相反する伏し目がちな奴の顔に、俺は見とれてしまった。
「まゆたん……」
「なんて言ったんだ?聞こえねえ」
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