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聞き取れなかったと顔を上げる奴…いや、天使の顔はそれはもう尊い。
今にもこぼれ落ちそうな大きな瞳に小ぶりな唇。そこらの女性に引けを取らない可愛らしい顔立ちだ。
信じたくないが、皆月太陽はリアルまゆたんだった…。
それからどんな会話をして別れ、椿たちに報告したのかも正直覚えていない。
ぼーっとしたまま寮部屋に着き、制服も脱がずにベットに仰向けに倒れた。
まゆたん…。俺の天使……。俺の支え……。
まゆたんにハマった経緯をぼんやりと思い出す。
俺と椿は小さい頃からの仲だ。親が金持ち同士、気が合うことが多かったからだ。
椿は昔から負けず嫌いで、他人にバレたくないからと隠れて努力を重ねてきた。
弱みに付け込まれてもいけないと、心を固く閉ざし、誰もが見とれる笑顔を作りあげていた。そんな中、親しい者にだけ見せる素の頼りなさげな笑顔は俺の胸を高ぶらせた。
父の自慢の息子になろうとする健気な姿に尊敬の念を抱いたし、劣情も抱いてしまった。
気づいたときには、彼を好きになっていた。
その気持ちにはっきりと気づいたのは中学3年の頃だ。
初め、その感情に気づいていなかった鈍感な頃に戻りたい、と思った。
その時には既に現実を知っていたからだ。叶うはずのない恋だと。
長男である椿は子を残すため他の女性と結ばれる。俺が女ならまだ可能性はあったが、俺は男だ。
絶望した。
この気持ちが涸れることは、たぶんない。女の子と付き合おうとしたこともあったが、椿に向けるような感情に1度もなったことがなかった。
こんなに辛いならいっそ、と椿から距離を置こうともした。それも出来なかった。
椿への恋情の他に、彼を支えたいという気持ちが強かったからだ。
長男である椿と三男である俺とでは、親や周りからのしかかる重みは全然違っていたが、常に完璧であろうとする椿が休める居場所に俺はなりたかった。
それは今も、変わらない。
だから、椿が父へのささやかな反抗でこの学園に入学することを決めたときも、俺はついていくことを選んだ。
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