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「っおい」
胡座を掻いている貴良の正面から跨るように身体を乗せれば、珍しく慌てたような声を出してあたしの両肩を掴んだ。
「何してんだよ、下りろ」
「なんで、いいじゃん。これからもっとすごい事するのにこんなので恥ずかしがってどうすんの?」
「はあ?お前本気で言ってんの?頭おかしいんじゃねえ?」
確かに。
おかしいのかもしれない。
自分以外の誰かを好きになった時から、誰も正常ではいられなくなるものなのかもしれない。
くすくす笑っていれば怪訝そうな目で見られたから、貴良のカッターシャツのボタンに手をかける。
伊達に何年も近くで見てきてないから、貴良がどうすればこの提案に乗ってくるかって事くらいは分かってた。
「ちょ、待てって」
「なに?貴良、ビビってんの?」
ボタンを外していたあたしの手を掴んだ貴良にそう言えば、その形の良い眉がぴくりと動くのを見た。
涼しそうな見た目とは裏腹に、実はこの男、大の負けず嫌いだったりする。
だから、多分。
「あ、もしかして怖いとか?」
──挑発すれば、乗ってくる。
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