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「仁木〜」
放課後の下駄箱。今まさにローファーを掴もうとしていた手が聞き慣れた声に阻止された。
振り向けばそこには同じクラスの男子生徒、服部が小首を傾げてあたしを見下ろしていた。
「なにお前、今日ひとりで帰んの?」
眩しいほどの金色の髪。第3ボタンまで開いたカッターシャツから覗く赤色のインナー。耳には数え切れないほどのピアス。
相変わらず主張の激しい奴だな、と頭の隅っこで思いながらもコクリと頷く。
「ミクもチホも委員会らしいから、今日はひとり」
「まじ?じゃあ一緒に帰ろーぜ」
俺も今日ひとりなんだよな〜と続けながら早々に靴を出そうとしている姿を見つめていれば、ふいに此方に視線を寄越した服部は噴き出すように笑った。
「すんげえ嫌そうな顔してんな」
「だってあんたと居るとまた変な噂流されるじゃん」
「そんだけお似合いってことだろ」
「ちょ、やめてよ!鳥肌立つ!」
「はあ?お前ほんっとつれねえな、派手な見た目してんのにガード固いし。そろそろ男作れば?」
「余計なお世話」
バンッと音が立つほど勢いよく下駄箱の扉を閉めて、ついでに中指を突き立ててやった。
「もう俺でいいじゃん。付き合お」
そんなあたしを総スルーして、未だに口説きにかかってくるこの男のメンタルにはもはや恐怖すら感じる。
なぁにが“俺でいいじゃん”だよ。
「むりむり、絶対むり」
「やっぱお前、好きな奴いんだろ?」
「いてもいなくても、服部は無理」
「うぜ〜」
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