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貴良に熱い眼差しを注ぎながら「久しぶりだね」と顔を綻ばせた彼女はゆるりとあたしに視線を向けた。
「貴良くん、ちょっと借りてもいい?」
ふわふわのミディアムヘアを耳にかけながら首を傾げる仕草も、此方を見つめてくる大きな瞳も、微かに漂う甘い香りも。
何もかもが完璧だ。
あたしなんか、比べ物になんない。
“借りてもいい?”だなんて。
まるで物を扱うような言い方にはさすがに少しカチンときたものの、それでも反論する権利なんてあたしにはあるわけもなくて。
せいぜい馬鹿みたいな笑みを貼り付けて「どうぞどうぞ!」と、そこから立ち退くしか術はなかった。
「なに、景山 取られた?」
奥のテーブルに移動して1人で浴びるようにお酒を飲んでいると、どこからか戻ってきた服部が笑いを含んだ声でそう言いながらあたしの隣に腰を下ろした。
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