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ねえ、気づいてる?
貴良の前であたしが泣いたの、今が初めてなんだよ。
貴良とってはそんな事、どうでもいいのかもしれない。だからそうやって、目を閉じてたままなのかもしれない。
ぼろぼろと溢れてくるそれがこめかみを伝って、耳を濡らしていく。
涙でぼやける視界に貴良の長い睫毛が掠めた。
「…っん、ぅ」
目を閉じていても綺麗だなんて、ほんと、ずるい男。
身体を裂くような痛みを必死に受け止めながら、その首にゆるく腕を回す。
そっと瞼を下ろせば、新しい涙がぽろりと零れ落ちた。
いつかの、いつか。
遠い、遠い、未来に。
“そういやあんなこともあったな”って、笑い合えたら、それでよかった。
それだけで、よかった。
だけど、ねえ。
笑える日なんて、来るのかな。
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