154人が本棚に入れています
本棚に追加
貴良の言葉に何も返事をしないまま、ちらりとあたしに視線を向けた服部が、そこでようやくふっと笑った。
「“現実は小説より奇なり”」
そんな言葉がぽつりと落ちてきたと同時、支えてくれていた腕がするりと解けていって。
“良かったな”って。
あたしにしか聞こえないくらいの声でそう耳打ちした服部は、静かにその場から立ち去った。
「貴良……なんで…?」
足音が完全に聞こえなくなってから恐る恐るそう聞いたあたしに、貴良は首裏に手を当てながら口を開いた。
「いや、うららの母さんから連絡あって」
「お母さん?」
「うん。お前がどこかほっつき歩いてたら、連れて帰ってきてくれって」
「……」
返ってきた言葉に、かくん、と膝の力が抜けてしまって、その場にへなへなと座り込む。
最初のコメントを投稿しよう!