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画面に表示されている、もうすっかり見慣れたその名前をタップすれば無機質なコール音が鳴り響いた。
何回目かのそれがぷつりと切れて、
『──はい』
耳に馴染んだ低音が鼓膜を揺さぶる。
「今何してた?」
『別に何も』
相も変わらず淡白な返事しか返ってこないのにはもうとっくに慣れてしまった。
がさごそというノイズが機械越しに響いている。何か探しているんだろうかと頭の隅で思いながら「そっか」と相槌を打つ。
「今日あたしの家、来る?」
『…なんか新刊出たっけ?』
「新刊はどれも出てないけど、面白そうなのが出てたから新しいの買ってある」
『じゃあ行く』
即答されたそれに思わず笑ってしまう。
あたしの返事を待たずに通話は強制終了されてしまった。これも、いつもの事だ。
真っ暗になった画面を見ても、あたしの口元は緩んだままだった。
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