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ずず、と鼻を啜る音が聞こえて、まるでそれが何かの合図だったかのように咄嗟に口を開いた。
「うらら、」
けれども名前を呼ぶのが精一杯だった。
そこから言葉が一向に出てこないで沈黙を更新していると、もぞりと動いたうららは、ゆっくりと肩越しに振り返った。
「…貴良…」
その声はいつもと変わらない声色だったけれど、此方を見つめるその大きな瞳は痛々しいほどに赤く充血していて、胸がズキンと痛む。
俺、めちゃくちゃ酷い事したのに。
最低だって、罵られてもおかしくないような事したのに。
なのになんでお前、笑ってんだよ。
なんで泣きながら、笑ってんだよ。
「…もう、帰っていいよ」
あの時のうららの笑顔が、今でも脳裏にこびりついて離れない。
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