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「あ!貴良くん!」
トイレから出るや否や、ドアのすぐ近くに木下だか木内だかどっちなのか分からないさっきの女子がいて、身構えする。
若干引いている俺に気づきもせず「もぉ〜待ってたんだよぉ!」なんて言いながら駆け寄ってきたその子は、俺の腕をするりと撫で上げた。
うわ、なんか…気持ちわりぃ。
「ねぇ貴良くんって彼女いないの?」
「いない、けど」
「じゃあさ、あたしと抜けない?」
その問いかけに俺が“なんで?”と声を返すよりも先に、ぐいっとシャツの首元を引っ張られた。
予想だにしない力に簡単に身体が前のめりになった次の瞬間、俺の唇にその子の唇がぶつかるように重なった。
「──っ」
途端にぶわわっと全身が粟立って“気持ち悪い”だなんて言葉では表現しきれない感覚に襲われた。
どんっと目の前の女を突き飛ばして、再びトイレに戻る。
便器に向かって嘔吐しているとドアを隔てた向こうから「貴良くん〜?」と俺を呼ぶ声が聞こえて、それだけで吐き気が増した。
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