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…まさかそんな事があったなんて。
ただでさえ人見知り気質だっていうのに、知らないオッサンが出てきてめちゃくちゃ焦ったんじゃないかな、とか。その時どういう対応をしたんだろう、とか。
そんな事を考えてたら自然と口元が緩んでいたらしい。
あたしを抱きかかえたままベッドの淵に腰を下ろした貴良はムッと眉を寄せて「何笑ってんだよ」と、あたしの頬を指先で軽く抓った。
改まって、ぱちりと合わさる視線。
なんとも言えない沈黙が数秒流れた後、頬を抓っていた貴良の指先が滑るようにするりと首裏に回った。真っ向からぶつかる視線が熱くて、胸が痛いくらいにドキドキした。
少し角度をつけた綺麗な顔が再び近づいてくるのを見て、今度はその唇が触れる前に「ま、待って!」と、その肩を押し返した。
「…なに?」
「いや、その…貴良って…あたしのこと、好きなの?」
“あの日”以降、あたしがずっと考えていた事だった。
“好き”だとはっきり言われていないからとかそういう事ではなく、もっと根本的に引っかかる事があるのだ。
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