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4日後、私は前日に受け取った万年筆をバッグに忍ばせて、送別会へと向かった。
宴会会場では、彼は、課長と係長の間の主賓席に座らされた。
いつもは、主任さんなのに、末席に座って注文を通したりする私の横で手伝ってくれてるんだけど。
私は、主任との距離に寂しさを感じながらも、お酒の注文などを店員さんに伝えていく。
しばらくすると、佐伯主任がビール瓶を片手に席を立った。
みんなに「お世話になりました」などと挨拶をしながら、お酌をして回っている。
最後に私の所に来た佐伯主任は、私と隣の原田さんの隙間に膝をついて座ると、私のグラスにビールを注ぎながら笑顔で言った。
「藍川さん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
私も笑顔で返す。
「藍川さんには1番お世話になったなぁ」
佐伯主任のそんな一言にじんとして一瞬胸が苦しくなる。
「いえいえ、お世話になったのは私の方です。飲み込みの悪い私にいろいろ教えてくださってありがとうございました」
私は、苦しい胸の内を隠して、笑顔で挨拶をする。
「俺、藍川さんなしでやっていけるのかな?」
ビール瓶をトンっとテーブルに置くと、そのまま頬杖をついて、私の顔を覗き込む。
やだ、近い!
この距離感、恥ずかしくてドキドキが止まらなくなる。
「佐伯主任なら、私なんかいない方が、足手まといにならなくて仕事に集中できますよ」
私は、主任との目を合わせられなくて、そっと目を伏せて、注いでもらったビールを一口飲んだ。
「集中……は、出来るかもしれないなぁ」
その言葉に、私は思わずグラスから視線を上げた。
けれど、目の前でこちらを見つめる彼と目が合った瞬間、また目を逸らしてしまった。
それを隠すように、私はまたビールに口をつける。
「顔赤いけど、そんなに飲んで大丈夫?」
佐伯主任はそう尋ねるけれど……
顔が赤いのは、絶対、ビールのせいじゃない。
佐伯主任が、そんな風に見つめるから。
でも、そんなことを言えるはずもなく……
「大丈夫です」
と答えて、私はまたビールを一口飲む。
すると、遠くから課長の声がした。
「こら、佐伯! そこで勝手にいちゃつくな!」
その声を聞いた瞬間、佐伯主任はサッと頬杖を外して顔を課長に向けた。
「課長! そういうのをセクハラって言うんですよ! 転勤前に人事に密告しておきますからね!」
佐伯主任はそう言い返すと、さっき置いたビール瓶に手をかけた。
「酔っ払い課長の言うことなんて気にしないで。うるさいから、一旦席に戻るよ。藍川さん、またね」
「はい」
私がこくりとうなずくと、佐伯主任は立ち上がって、自分の主賓席へと戻って行く。
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