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状況が一変したのは、それから数か月が経った頃だった。
『ポイント制度を改定します』
そんな通知がメールで送られてきた。
これまでは「ありがとう」がもらえるとポイントが加算されるだけの単純な仕組みだったが、これからはポイント減算の仕組みが追加されるとのことだった。
特に影響はないだろうと受け流してはいたが、
「うそだろ?! ポイントがめっちゃ減ってる……」
思わず目を疑ってしまった。貯めたポイントが、明らかに減っていたからだ。
インターネットで調べてみたところ、どうやらネガティブな発言をしてしまうと、貯めたポイントが減ってしまうらしい。それだけならまだしも、ポイントがマイナスになると、罰として支払いの義務まで発生する。国民性の清濁をコントロールするのが目的のようだ。
試しに呟いてみた。
「ふざけんなよ!」
管理画面をチェックすると、無情にもポイントは減らされていた。
どれだけ感謝の言葉を追い求め、清く生きたとしても、人はネガティブな言葉や思考を隠しては生きていけないものだ。ポイントの増減がそれを証明している。
何気なく生活しているだけなのに、ポイントはどんどん減っていった。付け焼き刃で「ありがとう」をもらうくらいじゃ、到底追いつかない。
部下につい言い放ってしまった「バカヤロウ」
飲み屋で同僚とクダを巻きながら叫んだ「クソ無能な上司に管理されるのは、ほとほと疲れるぜ」
ミスの報告のため、得意先へと謝罪に向かう道中、塾帰りの小学生とぶつかりそうになり「おい! 気をつけろよな」
資料を作っているとき、急にシャットダウンしたパソコンに向かって「クソが! 使えないポンコツだな」
彼女のスマートフォンに送られてきた、見知らぬ男からのメールに気づき「お前、浮気してるんだろ! だったら、とっとと別れてくれよ! そんな女と付き合ってたくないんだよ」
思い返せば、僕の日常はネガティブな言葉で溢れていた。いや、それは僕だけに限ったことじゃないはずだ。誰かに感謝されるよりも、誰かをキズつけることのほうが多い。人間なんて所詮、そんな生き物だ。
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