夜の街にも朝は来る

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 「club (さつき)」で1、2を争う人気ホストの麟斗さんが、アフターって言うんだっけ、店が終わってからも客と遊んで朝帰りする姿をたまに見かける。なにが凄いって、女の方が酔っ払っていたり遊び疲れて目の下が黒くなっているときでも、麟斗さんは涼しげな顔をしているのだ。  背が高くて、ちょっと長いアッシュグレーの髪をサラッと流している。左耳に輪っかのピアスをぐるっといくつも着けていて、ひとつにはダイヤらしき石がついていてキラキラ光っているんだ。 「麟斗くぅん、あたし帰りたくない」  女が甘えたような声を出す。といってもオバサンだ、ちょっと気持ち悪いな。 「駄目ですよ、明後日はニューヨークに出張なんでしょ」 「もー、支社の監査って面倒くさいわ。リモートじゃできないからねぇ」 「戻ってきたら話を聴かせてくださいよ」 「愚痴しかないわよ?」 「エリさんの話は何でも面白いです」 「上手ねえ。なんなら麟斗くんも一緒に行こうよお」 「オレ、パスポート持ってないから」 「ええ~、マジで?」  脚をもつれさせ倒れかかる女を支えるようにして、麟斗さんはうちの店の前を横切った。俺はホースを排水溝に向け、うつむきながら彼の姿を盗み見た。別にホストに憧れている訳じゃない。あんなもんは男の風上にも置けないと思ってるが、麟斗さんはついつい見てしまう。なんでだろうな。やっぱりトップクラスのホストともなると、男も引き寄せるオーラがあるのだろうか……オーラって、よくわからないけど……  麟斗さんがすっとこちらを見る。視線が合ってしまい、俺は慌てて顔を背けてから、あまりに露骨すぎてヤバいと思った。でも、俺みたいなチンピラに見つめられたら、麟斗さんも気味が悪いだろう。ふたりはゆっくりと大通りへ向かって行った。きっとタクシーを拾うのだろう。  格好良いなあ。  箱崎さんは「ホストばかり見やがって、あんなチャラい髪型にしたらぶっ殺す」とか言って、俺のことバリカンで坊主刈りにしてしまった。床屋に行く必要ないし、顔を洗うついでに石鹸で頭まで洗えてしまうから楽だけど、いかにもヤクザの舎弟って感じで、コンビニの店員にもビビられるし、微妙な気分だ。  ……てか、俺そんなに見てたか?  確かに箱崎さんは遅番で店に来ることが多いから、ホストの出勤時間に重なる。麟斗さんも駅から出勤してくる。俺は使い走りで外に出ることが多いから、たまたま見かけるだけだ。箱崎さんはなにか誤解してる。 「精が出るな」  いきなり声を掛けられて俺は心臓が飛び出しそうになった。  いつの間にか麟斗さんが立っている。いつもタクシーに乗って帰るのに。
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