3.

2/5
前へ
/13ページ
次へ
 ドキン、ドキン、と、心臓が早鐘を打つ。  パチッ  震える指で触れたスイッチの音が、やたらと大きく聞こえた。室内灯に照らされた部屋の中には誰の姿も見えない。けれど、絶対に何かいる。息を潜めた何者かの気配が、漏れ出している。 「誰かいるの?」そう聞きたい気持ちを、ぐっと堪える。それは死亡フラグ。同様に、「誰もいるわけないじゃん! 気のせいだって!」なんて強気に振る舞うのもダメだ。  私は靴箱に封印していた古い鎌を取り出し、その柄を握りしめた。 「出て来なさいよ」  覚悟を決めて出した声が、マスクで少しくぐもる。ベッドの下で、何かがごそりと動く気配がした。  そうよ、いい子ね。出て来なさい、そんな暗いところから。みんな、誰だって、もっと明るいところで暮らしていいんだから。  私自身もそれに気づくのに、ずいぶんかかってしまったけれど。  昔の私は、自己承認欲求が強すぎた。  私、キレイ?  そんなふうに迫って、怯えた人たちにキレイだよって言ってもらっても、何の意味もなかったのに。  夜道でひたすら通行人を待って、まやかしの、その場だけの「キレイ」をもらうためだけに生きていた。あの頃の私はまるで、SNSで「いいね」をもらうのに躍起になってるメンヘラみたいだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加