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「ごめんね? いつもみたいに後ろから声かけられなくて」
「芽里衣、そこちゃうやろ」
すかさずツッコミを入れた花ちゃんが、私の鎌を見てニヤリと笑う。
「まだ持ってたんやな、それ」
「出したのは1年ぶりよ。もう錆びてるわ」
「それでええんよ。もうそんな物騒なもん振り回すなや」
「誰のせいで持ち出したと思ってるのよ」
「うっせぇわ」
乱暴な流行り言葉を吐いた花ちゃんは、楽しそうにケラケラと笑った。
「実はね、店長に頼んで足止めしてもらったのよ? サナヲちゃんの誕生日サプライズ、大成功!」
「ケーキもあんで。一緒に食べよ。と言っても、無理にマスク取れとは言わへんから」
「マスクちょっと浮かせたらさ? こう、下から食べられるんじゃないかなぁ?」
芽里衣は小さな白い箱をテーブルに置き、その蓋を開けた。中には赤い苺の乗ったホールケーキが入っている。
「ありがとう……」
誰かに誕生日を祝ってもらうなんて、何年ぶりだろう。胸が熱くなった私の耳に、突然、シクシクという女のすすり泣きが聞こえた。
「えっ?」
反射的に顔を上げると、窓にうっすらと白い服の女が映っている。部屋にある姿見が暗い窓に映り、合わせ鏡のようになったその枠の奥から、呪いのような低い呟きとすすり泣きが聞こえてくるのだ。
その場の空気が、一瞬でピリッと張りつめるのを感じた。
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