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2.
「で、その客引きの効果はどないなん、サナヲ?」
クレオパトラみたいなツヤツヤのボブを揺らし、花ちゃんが聞いた。
「うーん……予約は増えたけど指名は増えてないって感じ」
「サナヲが怖かったんやろな」
「私なりにがんばってるんだけどなぁ」
「その調子で気張りや」
エリア3位の成績を誇る花ちゃんは、目を細めて後輩の努力を労ってくれた。トップを狙えと店長にはっぱをかけられている彼女だけど、本人曰く、3番目という位置が落ち着くらしい。
職場のサロンが入っているデパートの屋上は緑化されていて、お天気の日はとても気持ちがいい。友達とひだまりで過ごすランチタイム。それは暗く引きこもっていた頃には知らなかった、至福の時間だ。いつも3人でとるお昼休憩なのに、今日は芽里衣がまだ来ていない。
「ねぇ、芽里衣遅いね。施術が長引いちゃってるのかな?」
「いや、もうそこに来てるで」
「え、どこ?」
「……あなたの後ろ」
「わぁっ?!」
背後から聞こえた声に、思わず身震いする。振り向くと芽里衣がふわふわの茶髪を揺らして笑っていた。
「もぉ! いつもそうやって脅かすんだから」
「ごめんごめん、サナヲちゃん可愛いからつい、ね?」
そう言ってくれるけど、本当に可愛いのは芽里衣のほうだ。陶器みたいな肌に、フランス人形ばりのぱっちり二重。少し語尾の上がるしゃべり方までチャーミングで、嫉妬する気にもならない。
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