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芽里衣は私の隣に座り、ミニトートからお弁当包みを取り出して膝に乗せた。
「聞いてよぉ? 店長に捕まって、お説教されちゃった」
「『もっとやる気を出せ! 努力・根性・笑顔だ!』って?」
「そうそう。店長に言われると、説得力ありすぎて無下にできないじゃない?」
「あのムキムキの身体で迫られるとなぁ、たじたじやで」
店長は事故で下半身を損傷したために、義足を着けている。とはいえ、自宅ではそれを外して生活しているそうで、上半身の筋肉がボディビルダー並みに発達しているのだ。
私みたいなのを雇ってくれた彼女には恩を感じるけれど、対峙したときの圧が強くて、正直ちょっと暑苦しい。
卵焼きを食べながら、芽里衣が左手でバッグから何かを取り出した。
「ねえ、見てみて? 犬飼い始めたの。可愛いでしょう?」
芽里衣が掲げた画面を、二人で覗き込む。彼女は見かけによらず電話が大好きで、彼氏のさとるくんともそれが縁で知り合ったらしい。のろけ話が長いのがたまにキズの芽里衣だけど、今日の話題はペットの子犬のようだ。
最新機種の液晶には、何と言うか、人間のおじさんっぽい顔の犬が写っていた。
「なんや、微妙な顔の犬やなぁ」
「ブサカワでしょ? うちの前のゴミ収集場で、みかん箱に入ってて」
「ほんまに? みかん箱に捨てられとる動物なんかリアルで見たことないわ」
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