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花ちゃんの成績がいい秘訣は、こういう気遣いができるところにあるのかもしれない。
「うちのユーマの次に別嬪さんや!」
「……それは嬉しくない」
危うくお礼を言いそうになった口を、私はへの字に曲げた。
気を取り直して、マスクの下からゼリー飲料を差し込む。明るい陽の下で飲む甘く冷えたゼリーは、格別に美味しかった。
「サナヲちゃん、お昼いつもゼリーだけだよね?」
「自分だけ痩せようっちゅう魂胆やな」
「家では食べてるよ」
お腹が空かないわけじゃないけど、人前でマスクを取ることはできない。
ずっとマスクをしていても誰にも怪しまれず、むしろ人に安心感を与える時代が来るなんて。長く生きていればいいことはあるものだ。つくづくそう思う。
「サナヲちゃんの素顔を見られるのは、彼氏さんだけなのねぇ。ロマンチック!」
「てゆうかサナヲ、小栗さんとどこまでいってるん? 手くらい繋いだ?」
「手は……会ってる間、ずっと繋いでる」
「ずっと?」
「うん。さよならするまで絶対に離さないでねって、言われるから……」
「ラブラブなのねぇ!」
芽里衣が大喜びして、胸の前に組んだ手を振るわせる。花ちゃんはニヤニヤ笑いながら、「気ぃつけや」と言った。
「執着強い男がめんどくさいの、知ってるやろ?」
「うん……」
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