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私は半年前、ちょっと怖い思いをした。マンションの隣の部屋に引っ越してきた男に、しつこくつきまとわれたのだ。
いつのまにか部屋の壁に小さな穴を開けて、そこから私生活を覗いていた赤目の男。よほど赤が好きなのか、私の部屋に侵入して床に赤いクレヨンをばら撒いたり、愛用していた紫の鏡を赤く塗られたりもした。
「赤い紙がいい? 青い紙がいい?」
プレゼントだと言って小さな木箱を店に持って来た男がラッピング用紙を選べと迫ってきたときには、花ちゃんが赤いプリーツスカートをひるがえして華麗な回し蹴りをお見舞いした。そして休憩室で休んでいた店長が、マッハの速さで上半身だけで駆けつけて男を取り押さえ、熱い説教をしてくれたのだ。
おかげで男は改心し、どこかへ引っ越したのだけれど、彼が漂わせていたポマードの匂いは私のトラウマになった。そしてあの一件以来、私は気に入っていた赤いコートを一度も着ていない。
今でもときどき考える。あのとき青を選んでいたら、あの男は私をどうしただろう。
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