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 その日は帰り際に店長に捕まり、熱い自己啓発論に晒されること30分。最寄りのきさらぎ駅に着いたときには、あたりは薄暗くなっていた。  世に言う逢魔が時。駅からの道の脇には田んぼが広がり、ビニール製の人形がクネクネと揺れている。案山子(かかし)代わりに据えられたらしいそれが近づいてくるような気がして、私は田舎道をマンションまでダッシュした。  その途中で、2メートル以上はあるだろう長身の女性に覗き込まれたり、白くのっぺりした一本足の物体にぶつかりそうになったりしたけれど、足の速さだけには自信がある私。話しかけられないよう全速力で走り、玄関ドアを開けて自室に飛び込んだ。  よかった、もう安心だ。そう思ったのに。  暗闇の中に、人の気配がした。
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