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 新藤家には宮廷画家のように雇われている画家がいた。名を高木幸行(ゆきつら)と言い、歳は30で至って正直に生き、玲子とはよく献酬する仲だった。  或る晩も二人はバーに飲みに行くと、高木がアルコールが入るにつれ義憤に駆られたものか、うら若き女を相手にしているにもかかわらず綺麗事が蔓延る社会批判をおっぱじめた。 「国民の為にと政治家は実しやかに頻りに言うけど、それは国民を苦しめることに繋がる東大話法による言葉の暴力を誤魔化しているのに過ぎないのであって綺麗事を言っているのに他ならないのさ。そして私腹を肥やす。また、お客様の為にと客商売の者は実しやかに頻りに言うけど、それも自分の為にという本音を隠蔽しているのに過ぎないのであって綺麗事を言っているのに他ならないのさ。そして私腹を肥やす」  カウンター席ではないから大丈夫だとは思うもののマスターやバーテンダーに聞かれやしないかと玲子がカクテルを飲みながらはらはらしていても高木は獅子吼し続ける。 「ファンの為にとスポーツ選手やアイドルやアーティストなんかも実しやかに頻りに言うけどさ、それも突き詰めれば、商魂たくましく同じことなのさ。他人の為にという大人も、あいつの為にと言う青年も、あの子の為にと言う子供もそうで陰で罪のない一人の人間を皆して苛めておいて、その旧悪を棚に上げ、平気で綺麗事を言っているのさ。これは決して一部で起きてることじゃなくて一事が万事この有様で排他的で差別的なこの世に於いて全国津々浦々何処でも起きている現象で普遍的なことなのさ」  話が一旦、途絶えて一段落ついたようだわと玲子は一安心してグラスを傾けた。ところが高木は一口ジンを煽ってから諄いほどに憤懣を表す言葉が口を衝いて出た。
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