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取り付く島もなく二人は扉を指差した。出て行けということだ。
仕方なく腰を上げかけた瞬間、電光掲示板の数字がぴくりと動いた。5039になっている。
「ん?」と男の一人が覗き込んだ。その間にも数字はじわじわ増える。その速度はどんどん増していき、みるみる一万を越えた。
「おやおや」
ファイルをめくっていた別の男が俺を見る。
「あなた、小説家でしたか」
「ええ、まあ」
売れない、と付け足そうかと思ったがやめておいた。
「あなたの自殺を知ったある女子高生が、あなたの本に興味を持ち、図書館で借りたそうです。それを読んで感動したことをSNSで呟くと、フォロワーの多くが本屋に問い合わせ、出版社に増刷がかかった。本は売れ、それを読んだ人がまたSNSで感想を述べる。感動した、勇気付けられた、生きる力がわいた、希望が出た、がんばります、などなど。その最後には必ず、あなたへの感謝の言葉が添えられていたようです。ありがとう、とね」
数字は既に50000を越えていた。まだ増え続けている。
「おめでとうございます。もろもろのマイナスポイントを差し引いたとしても、10000を下回ることがなくなりましたので、あなたの行き先は、天国へと変更になりました」
死後、評価される。アーティストにありがちな現象だ。できることなら生きているうちに日の目をみたかったが、それは高望みと言うものだろうか。とはいえ、天国にいけることになったのだから、それはそれでよしとしよう。
俺は苦笑を浮かべながら、天国への扉へと向かった。
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