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その数字を伝えてやると、男はほっとしたような表情で、
「よかった。なんとか天国には行けそうだ」
「どういうことだよ、それ」
「あ、そうそう。これが重要なのよ。ほら。私たちが今並んでいるのは、審判を受けるためでしょ。天国行きか地獄行きかの」
そうなのだ。だからどんなに長い列でも我慢して並ぶしかない。
「でね、その行き先を決めるのが、この数字なんだって」
「つまり、この数字が一定のラインを超えていれば天国に行ける、ってことか?」
「その通り」
「じゃあそのラインってのは?」
「未成年ならその年齢によって変るらしいけど、成人は一律10000らしい」
よかった。ギリ越えてるじゃないか。これで俺も天国だ。と思っていたら、
「兄さん。今、天国に行けるって思ったでしょ」
「もちろんだ。10000越えてるんだからな」
「ところが、審判の席では、この数字が減ることもあるんだよ」
「なんで?」
「例えば、生前人様に迷惑をかけたとか、公序良俗に反する行いをしたとか、あるいは罪を犯したとかね。その行為によって減らされる額は違うようだけど、いちばんマイナスポイントが大きいのが、自殺なんだって」
「は?どうしてそうなる」
「知らないよ。たぶん神様は、自殺がいちばん罪深い行いだって考えなんじゃないの?」
さっきこの男がまずいと言ったのはこういうことか。確かにそうだ。自殺はもちろんのこと、それ以外にも俺は気づかぬうちに色々とやらかしているかもしれないのだ。どれほど減額されるのかはわからないが、10000のラインを下回る確率はかなり高いように思う。
「それにしたって兄さん、なんで自殺なんかしたかね。もったいない話だよ。私なんか生きたくても生きれなかったってのに」
「じゃあ、あんたはなんで死んだんだよ」
「私はほら、今流行りの病気で。多分この列に並んでいる人の殆どがそうじゃないかな」
突然降って沸いたような疫病。流行りだした当初はその対策が後手に回ったせいでかなりの死者が出たはずだ。確かにまさか自分が死ぬと思っていた人はいなかっただろう。
そんな中、俺は自殺という道を選んだ。小説家を続けていく気力が失せたのだ。
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