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俺の提案を、男は「だめだめ」と鼻で笑いつつ、
「口先だけのありがとうじゃだめなんだよ。些細なことでもいいからちゃんとその人の役に立って、心から出たありがとうでないと」
今さら俺が人の役に立てるはずもない。死ぬ前に知っていたら、なんとかできたのかもしれないが……。
丸三日ほどかかってやっと列の先頭まで来た。三日というのはあくまでも体感だ。ここには昼夜の区別がない。ずっと眠りもせずに並び続けていたのだ。だが疲れは全くなかった。死んでいるのだから、そんなことは感じないのだろう。
個室に案内されると、役所にいそうな雰囲気の男が二人並んで待ち構えていた。事務机を挟んだ席に座らされる。まるで何かの面接のようだ。審判というから閻魔大王と対面できるのかと思っていたが、期待はずれだ。
二人の前には開かれたファイルがあり、机の端には小さな電光掲示板が置かれていた。俺が座ると同時にそこに5桁の数字が燈る。10038。俺のありがとうの数だ。
「えー。カサイ、オサムさん、ですね?」
一人の男の問いに、はいと肯く。
「あなたのAポイントは……」
電光掲示板をちらりと見てから、
「10038、ですね」
「しかし……」と別の男が書類に目を落としたまま、
「あなた、自殺をされていますね」
それからギロリと俺を睨む。
思わずすみませんと謝ってしまった。
「謝罪の必要はありませんよ。それは本人の自由ですから。ただ、自殺となると、ポイントは減額されて……」
男はファイルの別のページをめくる。どうやらそこに一覧表があるらしく、指でなぞりながら、自殺、自殺……とその項目を探している。
「ああ、ありました」
視線を上げた男は、
「ちなみに、あなたの自殺方法は?」
「飛び降りです。ビルの屋上から」
「なるほどなるほど。まあ、巻き添えになった人もいないようですし、この場合のマイナスポイントは……」
どうか38以下でありますように。と、ずっと祈っていたが無駄だった。
「5000ですね」
5000?そんなに?異議を唱えたかったが何も言葉が浮かばない。まあ言ったところで無駄だろうが。電光掲示板の数字は既に5038になっている。
「他にもマイナスポイントはあるようですが、この時点で10000を大きく下回りましたので、地獄行きが決定です。お疲れ様でした」
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