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Aポイントで行こう
前に立つ人の肩越しに、背伸びをして眺めてみるが、行列は延々と続くばかりだ。これじゃあいつ俺の順番が回ってくるのかわかったものじゃないけれど、他にどうすることもできず、ただ並んで待つしかない。
「こりゃ、ちょっとやそっとじゃいかないね」
話しかけられたのだと思い振り返る。見知らぬ初老の男が、辟易した表情で俺と同じく前方を眺めていた。なぜかその額にはうっすらと数字が浮き出して見える。刺青だろうか?19562と読める。
俺と目が合った男が、「おや」と不思議そうな表情を見せた。
「兄さん、この列に並ぶにしちゃ若いね。幾つ?」
45と答えると、
「なんだ。案外いってるんだ。30代かと思ったよ。若く見えるね」
女性になら褒め言葉になるだろうが、男性にはどうだろう。少なくとも俺にはいやみに聞こえた。風格が足りないと言われているようで。
「兄さんはどうしてこの列に?病気か何か?」
「いや。違うよ」
「じゃあなに?」
興味津々と言うふうで訊ねてくるが、言いたくはなかった。だが列はこの先も続く。その間ずっとこの男が後ろにいるのだ。その表情からするとしつこく訊かれるに違いない。今は言わなくとも、遅かれ早かれ言う羽目になるのは目に見えている。だったら今言ってしまおう。そのほうがすっきりする。
「自殺だよ」
「え?ほんとかい?兄さん、そりゃまずいよ」
「何がまずいんだよ。どんな死に方しようが、ここに来ればみんな一緒だろ」
すると男はきょろきょろと辺りを見渡してから声を落とす。
「いや、実はね、この列に並ばされる前、死神のやつらが話しているのを小耳に挟んだんだよ」
死神。死んだ人間たちをここまで連れてくる案内役のようなものだ。そいつらが何を言っていたというのか。
「ほら」と男は自分の額を指差した。
「ここに数字が出てないかい?」
さっきから気にはなっていた。5桁の数字だ。俺が肯くと、
「これね、私が生まれてから今までに人から言われた〝ありがとう〟の数なんだって。生きてるときには見えないけど、死んだらみんなこうなるんだって。あいつらは確かAポイントって呼んでたな」
「Aポイント?じゃあ俺のデコにも?」
「もちろん出てるよ。10038だね。ちなみに私のも教えてもらえるかな」
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