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怒りの理由
「そうか……わかったぞ」
「絵を速く描く方法ですか?」
「それは自分で考えろよ。あの五月女がなんで怒っていたかだ」
「まだ考えていたんですか」
相坂はため息を吐いた。
「俺の鋭い観察眼からするとだな。あれは怒っていたんじゃない」
「というと?」
「教育していたんだ」
「教育」
「そう教育。あれは教育なんだ……五月女が怒った相手はどんなやつだった?」
「女子高生に若いスーツの男性……でしたか」
「相坂は気がついたか。買い物帰りっぽい自転車に乗った四十代くらいの主婦には目もくれなかったんだ。怒らなかったんだよ」
「はあ。それで、教育とは?」
「歳をとるとあれこれ言いたくなるものだろう? 女子高生は明るい茶髪だった。五月女の年代からすると許せないのだろう。その次はスーツの男。こいつは携帯端末をいじりながら歩いていた。それに怒ったんだ」
「随分と安直な推理ですね」
西倉は眉をしかめる。
「じゃあ相坂はどう思うんだよ」
「私はやっぱり、ただ意味もなく怒っていただけだと思いますけどね」
「それじゃ面白くないじゃないか」
「西倉さんのだって全然面白くないですよ。殺人事件とか言い出すのかと思ったら」
「人が死んだら大変だろう」
「そこは常識的なんですね」
「逆にどこが非常識なんだ」
「というか、自信があるんだったら答え合わせしてきたらどうです?」
「答え合わせ? 五月女氏もいないのにどうやって」
「あそこのベンチに座っています」
「あそこ? 座ってるのは五月女氏じゃないだろう。どうみても若い男だ」
「鋭い観察眼をお持ちの西倉さんは気がついていたと思いますが、あれは五月女さんに怒られた男性です」
「ああ」と西倉は漏らして「あいつに聞きに行こうとさっきから思っていたんだ」と付け加えた。
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