1.ポニーテールの支配人

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1.ポニーテールの支配人

1.ポニーテールの支配人 3人の大学生が、校内の図書館に集まっていた。 夏休みに、車で2週間、北日本縦断の計画をしていた。 行き先は決めない。 そのほうが思い出に残る旅になる。 「思い出に残る夏休みにしようぜ」 野口が言った。 「生まれ故郷の秋田に2人を案内したいな」 秋田が故郷を思い出して言った。太っていて、実年齢より上に見える。 「俺は、2人に各地の名所、名物を説明してやるよ」 物知りの藤原が言った。裕福な家庭で育ったためか、物怖じしない。 藤原は、周囲を気にせず思った事をすぐ口に出す。 食事中に平気でここの店の○○はまずいよなと二人に同意を求めたりする。 当日、予約していたレンタカーの店に、3人が集まった。手続きを済ますと、3人は車に乗り込んだ。 「今日は200キロ走ったが、まだ明るいから、もう少し走る事にするか」 野口は、旅行3日目なので、もう少しドライブしようと思った。 「そうですね」 秋田が相槌をうった。 「無理は止めようよ。ホテルを探す時間も見込んでおいたほうがいい」 藤原が長時間のドライブで、後部座席から疲れた口調で言った。 「そうだな」 野口は、明るいうちにホテルを探しがしたほうがいいと思い同意した。 野口が駅前に車を止めた。 駅にホテルの看板がないか探したが無かった。 停車しているタクシーもない。 駅員の姿もない。 無人駅なのか? 野口は携帯電話で周辺のホテルを探した。電話するとどのホテルも満室だった。 野口は車に戻った。 「悪いな。空いているホテルが見つからない」 「しょうがないですよ。少し走って探しましょう」 助手席の秋田が言った。 秋田は秋田出身で我慢強い。 「俺の言ったとおりだろ」 藤原はニヤリとして、口を曲げて言った。 3人は車の中で、コンビニで買ったパンとジュースを取り出した。 「野口はいつも女性に人気があってうらやましいな」 秋田が大学で、女子生徒が、野口に話しかけるのを思い出して言った。 「そんな事ないよ。自分の好きな女性意外にもてても意味がない」 野口が言った。 「神話に、人間は男女両性体だったという話がある。 確か、神か天使の怒りに触れて、2つに引き裂かれ地上に放たれたんだ。 それ以後、男女はお互いの半身を探し求めているんだ」 藤原の講釈が始まった。 「神話どおりなら、離婚もないだろうに」 野口も、長時間のドライブで疲れていた。 藤原の講釈は、今日は、いいよと言いたかった。 「秋田、野口が女性に人気があるということは、女性の心を持つ男性にも人気があるということだと思うんだ」 藤原の講釈に熱が入ってきた。 野口の気持ちなど、考えもしない。 頭に浮かんだことは、すぐ口出してしまう。 「よしてくれよ」 野口が不快そうに言った。 コンビ二弁当を済ますと車道に戻った。 10キロ位走ると、派手なホテルの看板が見えた。 500m位先らしい。 暫くしてホテルに着いた。 あたりは真っ暗だ。暗くてホテルの全体はよく見えない。 「見つかってよかったですね」 秋田の声は相当疲れていた。 (しかし、こんな人気のない所にホテルだなんて、……ラブホテルの訳ないし?) 野口は嫌な予感がした。ホテルの駐車場に車を止めた。 フロントは2階と書いてある。 3人が、ホテルのドアを開けてエレベータに乗った。 ビジネスホテルは20室位か。 エレベータは、5人で一杯になるほど狭かった。 エレベータが2階に止まり、ドアが開いた。  一瞬、3人は息を呑んだ。 「いらしゃいませ」40歳位の支配人。ボデイビルダーの体格でスキンヘッドに、ポニーテールの髪は15cm位で、カラフルに編んでいる 。黒のスーツは透けた生地で筋肉が見えそうだ。蝶ネクタイをしている。 フロントに近づくと、支配人の強烈な香水の臭いが鼻をついた。 目の前にフロントのテーブルが無かったら、ホテルの受付とは思わないかもしれない。 野口はフロントの横の長椅子に横たわった少女が気になった。 少女は白い浴衣姿だった。 18歳位のかわいいが、目が虚ろで近づきたくない雰囲気だ。 「こちらにお名前、会社名、電話番号の記入をお願いします」 支配人はそう言うと、3人を足元から顔まで舐めるように見た。 「名前だけでいいですか?」 野口は、名前だけを書いた。 「お一人で結構ですから電話番号もお願いします」 支配人が言った。 野口は3人の名前を記帳した。 「秋田様、藤原様は4階の41号室。42号室です」 と支配人が言った。俺は? と野口は思った。  支配人がエレベータに案内すると、少女もエレベータに乗ってきた。 着崩れした浴衣から、ピンク色の乳首が見えそうになり、野口は慌てて視線を逸らした。 支配人が少女に何か言ったようだった。少女はエレベータを降りた。 エレベータは4階に止まった。 3人は廊下を歩いて41号室のドアの前に立った。 「秋田様のお部屋です」 ごく普通のビジネスホテル仕様だった。 藤原の42号室もビジネスホテル仕様で3人は安心した。
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