第2話 お前を認めない

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 人気の少なくなった夜の校舎裏。  逃げられることのないように早めに準備してから、自分が指定した場所でランフランクを待った。  千流は人間なので夜目など持っていないが、満足に戦えるように鍛えられているため問題はない。  布で隠された刀を両手で抱きしめ、たとえ闇討ちされても問題ないように気配に集中した。 「……」  足音が聞こえるより早く、千流は瞳を動かしなにもない暗闇を見る。  と、同時に砂利を踏む音が空気に乗って響き、長身の人影が現れた。 「おう。悪いな。遅くなって」 「……いえ。先輩を呼び出したのは、私ですから」  できるだけ柔らかい声を装い、表面だけ親しげな声で応える千流。  さて、どうするか。不意打ちで奴を斬ってもいいが。 「ん――お前、昨日廊下にいた奴か?」 「……ええ。そうです」  流石に、あそこまで敵意を向けられていると間抜けでも顔を覚えるか。  千流は薄く笑って、両手の刀を抱え直した。 「一年の、阿山狩千流です」 「……三年のガートルード・ランフランク」 「ええ。知ってます。人気者ですから、先輩」 「……で。俺に何だ?」 「……そうですね」  さりげなく抱いていた刀を右手のみに持ち変えて。ランフランクに悟られないように、彼の顔を上目で見上げる。 「……少し、先輩に、お願いが――」 「おらよ」  警戒されないようゆっくりとした口調で話ながら、親指で刀の鍔を持ち上げようとした千流の気が、少し殺がれた。  その理由は、突如、目の前に突きだされたスマートフォン。 「……は?」 「このサイト知ってんだろ?」 「……」  暗闇のなかで光るライトの眩しさを最初鬱陶しそうにしていたが、言われてスマホを受け取りまじまじ画面を覗きこむ。 『 ガートルード・ランフランク   種族 インキュバス   退魔師ランクC 貢献信用ランクD 』 「……これって」  退魔師専用の全国退魔師リストページだ。退魔師なら知らない人間などいない。 「師匠曰く、退魔師同士でやりあうのはご法度らしいな」 「……は? なに、貴方」 「まー、そういうこった」  ランフランクは呆然とする千流からスマホを取り返すと、それをポケットに仕舞って踵を返す。 「仕事一緒にやることになったら、よろしくな。んじゃ、俺部活で疲れてっから」  手を軽く振って、帰ろうとしたランフランク。しかし、バチリと電気が発生したように彼の行く手を阻んだのは、千流が逃げられないように仕掛けた退魔のトラップの壁。  迂闊にもモロにくらい、うおっ、と驚いた声をあげた人外の彼は、そこかしこに校舎裏に貼られた退魔の札を夜目で確認して「ああ??」と首を捻った。 「これお前の? ひでートラップ――」 「……めない」 「……はあ??」  呟いた千流の言葉が聞き取れず眉をひそめたランフランクに、千流はキッと彼を睨んで、叫ぶ。 「認めるわけないでしょ!? あんたが、退魔師!?」 「あ??」 「しかもインキュバスって、ふざけないで!! 大人しく今、私に退魔されろ!!」  前触れなく声を荒げて刀を抜き、ランフランクに向かって千流は構えた。  ランフランクはギョッとした顔で目を白黒させながら、殺気だつ初対面の女子を見つめた。
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