第一話 知らせ

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第一話 知らせ

 長男長女にとって、弟か妹が誕生するという事は、孤独から開放される嬉しい出来事であると同時に、愛情の争奪戦の始まりでもあります。  これは、そんな気持ちと真正面に向き合った少女のお話です。 ◇◇◇ ◇◇◇  彼女の名前は木下雫(きのしたしずく)。  七歳の小学三年生。  普通の市立の小学校に通い、普通の家族がいて、普通に友達がいる、ごく普通の小学生だ。  ちょっと人見知りな所があるが、それはさして気にする程ではないし、本人も全く気にしていない。  ある日、彼女は友達と別れて、ルンルン気分で早めに家に帰った。  今日はお母さんにお菓子作りを教えてもらう予定だからだ。  ちなみに、雫はお母さんの事が大好きだ。  いつも優しく頭を撫でてくれて、優しい言葉を掛けてくれる。当然叱られた事なんて一度もない。  ついでに言えばお父さんの事も大好きだ。  お父さんは平日は全く顔を会わせる事がないし、休みの日は寝てばっかりだけど、たまに学校の話をすると真剣に聞いてくれる。  雫がリレーの選手に選ばれた事を話すと両手を上げて喜んでくれた。どっちが子供かと言いたくなるくらいに。 「ただいまあ」  雫は大きな声で玄関を開けた。 「おかえり」  とお母さんの声が聞こえて来た。  でも、それはキッチンからではなく、リビングからだった。 「あれ?」  と思いながら、雫はリビングに向かった。  そこには、ソファーで横になっているお母さんがいた。 「どうしたの、お母さん」 「ごめんね、雫。今日はちょっとケーキ作りは無理かな。またいつかね」 「うん、いいよ。でも、どうしたの?」 「ううん、そうね。雫、あなたお姉ちゃんになるかもしれないわよ」  雫はその言葉の意味がわからず、首を傾げていた。 「雫、あなたに弟か妹ができるのよ」  雫はまだピンと来ていない。 「今日ね、お母さん病院に行ってきたの。そしたら、お腹に赤ちゃんがいる事が解ったのよ」  やっと理解した。 「ほんと、お母さん」 「ええ、本当よ。今、ここにいるのよ」  お母さんは自分のお腹をさすった。 「ふうん。でも、なんも変わんないよ」 「ふふっ、まだまだ小さいもの。そうね、冬休みくらいかしら、会えるのは」 「ええ、そんなにかかるのお」 「そりゃそうよ。雫が出てくる時だって、ずいぶん待たされたのよ」 「へえ、そうなの」  雫は嬉しくなって、ケーキ作りなんてどうでもよくなった。  今までは、兄弟がいる友達を見ては羨ましく思っていたが、もうこれからはそんな思いをしなくても済む。  一緒にママゴトをしたり、絵本を読んだり、ゲームをしたり。一緒に遊べる相手が出来る。  そんな期待で胸がいっぱいになった。  雫はたくさんの期待を込めて、いつまでもお母さんのお腹をさすっていた。
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