3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
第一話 知らせ
長男長女にとって、弟か妹が誕生するという事は、孤独から開放される嬉しい出来事であると同時に、愛情の争奪戦の始まりでもあります。
これは、そんな気持ちと真正面に向き合った少女のお話です。
◇◇◇ ◇◇◇
彼女の名前は木下雫(きのしたしずく)。
七歳の小学三年生。
普通の市立の小学校に通い、普通の家族がいて、普通に友達がいる、ごく普通の小学生だ。
ちょっと人見知りな所があるが、それはさして気にする程ではないし、本人も全く気にしていない。
ある日、彼女は友達と別れて、ルンルン気分で早めに家に帰った。
今日はお母さんにお菓子作りを教えてもらう予定だからだ。
ちなみに、雫はお母さんの事が大好きだ。
いつも優しく頭を撫でてくれて、優しい言葉を掛けてくれる。当然叱られた事なんて一度もない。
ついでに言えばお父さんの事も大好きだ。
お父さんは平日は全く顔を会わせる事がないし、休みの日は寝てばっかりだけど、たまに学校の話をすると真剣に聞いてくれる。
雫がリレーの選手に選ばれた事を話すと両手を上げて喜んでくれた。どっちが子供かと言いたくなるくらいに。
「ただいまあ」
雫は大きな声で玄関を開けた。
「おかえり」
とお母さんの声が聞こえて来た。
でも、それはキッチンからではなく、リビングからだった。
「あれ?」
と思いながら、雫はリビングに向かった。
そこには、ソファーで横になっているお母さんがいた。
「どうしたの、お母さん」
「ごめんね、雫。今日はちょっとケーキ作りは無理かな。またいつかね」
「うん、いいよ。でも、どうしたの?」
「ううん、そうね。雫、あなたお姉ちゃんになるかもしれないわよ」
雫はその言葉の意味がわからず、首を傾げていた。
「雫、あなたに弟か妹ができるのよ」
雫はまだピンと来ていない。
「今日ね、お母さん病院に行ってきたの。そしたら、お腹に赤ちゃんがいる事が解ったのよ」
やっと理解した。
「ほんと、お母さん」
「ええ、本当よ。今、ここにいるのよ」
お母さんは自分のお腹をさすった。
「ふうん。でも、なんも変わんないよ」
「ふふっ、まだまだ小さいもの。そうね、冬休みくらいかしら、会えるのは」
「ええ、そんなにかかるのお」
「そりゃそうよ。雫が出てくる時だって、ずいぶん待たされたのよ」
「へえ、そうなの」
雫は嬉しくなって、ケーキ作りなんてどうでもよくなった。
今までは、兄弟がいる友達を見ては羨ましく思っていたが、もうこれからはそんな思いをしなくても済む。
一緒にママゴトをしたり、絵本を読んだり、ゲームをしたり。一緒に遊べる相手が出来る。
そんな期待で胸がいっぱいになった。
雫はたくさんの期待を込めて、いつまでもお母さんのお腹をさすっていた。
最初のコメントを投稿しよう!