第十一話 野武士の元ちゃん

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第十一話 野武士の元ちゃん

 ノノと天母様は社務所に戻ってきた。  天母様がノノに尋ねた。 「ねえ、ノノちゃん。さっきの野武士の言っていた事、どう思う?」 「うん、なんか意を決した顔してたしね。本当だと思うよ」 「そうよね。思っていたよりもずっと大きい組織みたいね」 「それより、頭(かしら)の名前がエド・スミスって、何だか西洋人みたいだね」 「そうらしいわ。ただ、流れ着いたのか、目的があってやって来たのか、そういうのが全く謎なのよ」 「へえ。それより、天母様。どうしてそういう事知ってるの。当てずっぽうじゃないよね」 「もちろんよ。ううん、ノノちゃんだけに言うけど、それは行商人よ」 「行商人?」 「行商人は仕事柄、あちこちに顔を出しているのよ。ここにも定期的に行商人が来るから、それでちょこちょこって聞いたのよ」 「へえ、なるほどね。行商人は忍びだって噂は本当なの?」 「それはわからないわ。彼らは自分の事言わないし。あ、そういえばあと三日もすれば行商人が来るわよ。『権(ごん)』さんって言うんだけどね。色々聞いてみるといいわ」 (行商人の権さんか。どんな人なんだろう)  ノノはそう思いながらその日は就寝した。 ◇◇◇  翌朝、ノノと天母様は朝ごはんを持って土蔵に行った。 「縄も解いたし、ひょっとしたら逃げちゃってるかもね」  なんて言いながら土蔵の扉を開けると、野武士はそこにちゃんといた。  そして天母様の姿を見ると、畏まって正座をしてこう言った。 「天母様。どうか私を仲間に入れて下さい」 (あれ? 昨日の尋問で改心したのかな?)  野武士は続けた。 「拙者は狭山元ノ助と申す。天母様の言うとおり、拙者は戻った所で殺されるでしょう。それに、最近の頭(かしら)のやり方には少し嫌気が指してきた所でした」 「何かあったの?」 「はい。私はもともと百姓でした。でも、それじゃ生活できないので武士になったのです」 (きっと十兵衛さんと同じような状況だったのかも)  とノノは思った。  野武士は続けた。 「しかし、頭のやっている事は盗賊だ。あんなの武士じゃねえ」 「自分のやった事を悔いているのね」 「はい」 「わかったわ。でも、ここはお侍さんの世界じゃないから、出入りは自由よ。働きたくなったら働けばいいし、嫌になったら出ていっても構わないわよ」 「わかりました。ありがとうございます」 「でも、名前が長いなあ」 「は?」 「ううん、そうだ、元(げん)ちゃんって呼んでいい? そっちの方がかわいいし」 「ははっ」  野武士、いや元ちゃんは頭を下げた。  こうして、神社籠城作戦に野武士の元ちゃんが加わった。
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