23人が本棚に入れています
本棚に追加
第十一話 野武士の元ちゃん
ノノと天母様は社務所に戻ってきた。
天母様がノノに尋ねた。
「ねえ、ノノちゃん。さっきの野武士の言っていた事、どう思う?」
「うん、なんか意を決した顔してたしね。本当だと思うよ」
「そうよね。思っていたよりもずっと大きい組織みたいね」
「それより、頭(かしら)の名前がエド・スミスって、何だか西洋人みたいだね」
「そうらしいわ。ただ、流れ着いたのか、目的があってやって来たのか、そういうのが全く謎なのよ」
「へえ。それより、天母様。どうしてそういう事知ってるの。当てずっぽうじゃないよね」
「もちろんよ。ううん、ノノちゃんだけに言うけど、それは行商人よ」
「行商人?」
「行商人は仕事柄、あちこちに顔を出しているのよ。ここにも定期的に行商人が来るから、それでちょこちょこって聞いたのよ」
「へえ、なるほどね。行商人は忍びだって噂は本当なの?」
「それはわからないわ。彼らは自分の事言わないし。あ、そういえばあと三日もすれば行商人が来るわよ。『権(ごん)』さんって言うんだけどね。色々聞いてみるといいわ」
(行商人の権さんか。どんな人なんだろう)
ノノはそう思いながらその日は就寝した。
◇◇◇
翌朝、ノノと天母様は朝ごはんを持って土蔵に行った。
「縄も解いたし、ひょっとしたら逃げちゃってるかもね」
なんて言いながら土蔵の扉を開けると、野武士はそこにちゃんといた。
そして天母様の姿を見ると、畏まって正座をしてこう言った。
「天母様。どうか私を仲間に入れて下さい」
(あれ? 昨日の尋問で改心したのかな?)
野武士は続けた。
「拙者は狭山元ノ助と申す。天母様の言うとおり、拙者は戻った所で殺されるでしょう。それに、最近の頭(かしら)のやり方には少し嫌気が指してきた所でした」
「何かあったの?」
「はい。私はもともと百姓でした。でも、それじゃ生活できないので武士になったのです」
(きっと十兵衛さんと同じような状況だったのかも)
とノノは思った。
野武士は続けた。
「しかし、頭のやっている事は盗賊だ。あんなの武士じゃねえ」
「自分のやった事を悔いているのね」
「はい」
「わかったわ。でも、ここはお侍さんの世界じゃないから、出入りは自由よ。働きたくなったら働けばいいし、嫌になったら出ていっても構わないわよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「でも、名前が長いなあ」
「は?」
「ううん、そうだ、元(げん)ちゃんって呼んでいい? そっちの方がかわいいし」
「ははっ」
野武士、いや元ちゃんは頭を下げた。
こうして、神社籠城作戦に野武士の元ちゃんが加わった。
最初のコメントを投稿しよう!