第十三話 恋心

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第十三話 恋心

 夕暮れ時、村人達は夕食を終えてそれぞれ寛いでいた。  ノノは、ふとお静さんと十兵衛さんの事が気になり、本殿に行ってみた。すると柱の陰で赤ちゃんを抱いているお静さんを見つけた。十兵衛さんも一緒だ。  お静さんはすっかり顔色がよくなり、母乳も出るようになっていた。  見ると、赤ちゃんは満足そうに胸に顔を埋めていた。 「お静さん、おっぱい出る様になったんだね」 「あら、ノノちゃん。うん、ノノちゃんのおかげよ。ありがとう」 「いや、私は何も……」  嬉しかったが、ちょっと照れくさかった。  十兵衛さんがノノに言ってきた。 「こいつの名前、之々(のの)にしたんだ」 「え、私と同じ。ちょっとそれはヤバくない」 「やばくない?」 (あ、そうか。ヤバいは現代語だった) 「あ、いや。よくないんじゃないかなって」  するとお静さんが説明した。 「そんな事ないわよ。だってこの子の命の恩人だもの。その恩を忘れない為に付けたの」  褒められたのは嬉しかったが、ちょっとくすぐったかった。ノノは逆に居づらさを感じて、その場を立ち去る事にした。 「その之々ちゃんも元気に育つといいね。じゃ、私用事あるから」  と言って、軽く手を降ってその場を離れた。  境内の作業場に来ると、今度はその隅に腰を下ろしている陣三郎君を見つけた。  左手に木片を持って、小刀で何かを彫っている様だ。  ネコ耳型の『お宝レーダー』が反応した。  ノノは彼に近づいて声をかけた。 「陣三郎さん」  彼は端正な顔をこちらに向けた。  夕日に照らされて、とても美しかった。 「ああ、おめえはいつも天母様といる」 「うん。ノノって言うの。よろしく」 「あ、ああ」  ノノは彼の手元を見た。 『お宝レーダー』が激しく反応し『五十億』と表示した。 (凄い。これ一つでノルマ達成どころか、三ヶ月の休暇とボーナスがもらえるよ)  嬉しくなったが、その気持ちを必死に抑えて、さらに話しかけた。 「それ、牡丹だね」 「ああ、そだ」 「お花好きなの?」 「いや、特に」 「じゃ、なんで牡丹なの?」 「木っ端見てたら、中にこれが見えたんだ。おらはそれをほじくり出しただけだ」 (すっごい。これって正に天才の発言) 「上手だね。私、それ欲しいな」 「そか。でも、すまねえ。これはお福にやるだ」 「お福? お友達」 「んだ。幼馴染だ。お福はこれがきっと似合う」 「ふうん。お福さんの事好きなの?」  陣三郎さんの顔が夕日よりも真っ赤になった。 「こ、こらノノちゃん。からかうでねえだ」 「へへ、ごめん」 (こりゃ、私が入る隙ないな。休暇とボーナスはお預けだな)  トレジャーハンターがお宝を入手する際は必ず持ち主の許可を必要とする。盗品の扱いは禁止されているからだ。  ノノが残念そうな顔をしたからだろうか、陣三郎さんがノノに言った。 「ノノちゃんに似合いそうなものが彫れたら、やるだよ」 「え、本当?」 「ああ、ホントだ」 「やったあ、ありがとう。待ってるよ」  よし、次のお宝に期待しよう。
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