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第十四話 あっかんべー
翌日の昼下がり。
神社の境内では、相変わらず村人達が作業をしていた。
そこに宮司さんが来て天母様を呼んだ。
「天母様。野武士からの使者という者が参りました」
「来たわね。うん、今行くわ。ノノちゃんも付いてきて」
ノノと天母様は社務所に行った。
社務所に着くと、小柄で髭を蓄え、腰に刀を携えた男が立っていた。
他の野武士達よりも少し上等な服を着ている。
「お主が天母殿であるか」
天母様がうなずくと使者は続けた。
「拙者は頭(かしら)の使いの者である。言付けに参った。よろしいか」
頭とはエド・スミスの事だろう。
「どうぞ」
天母様は無表情にそう答えた。
「此度の謀反についてだが」
「謀反?」
「オホン、口上中である」
「はいはい、どうぞ」
「謀反について、我らが頭は大変立腹である」
「プッ! 何それ」
「口上中である」
「ああ、そうだったわね。はい、どうぞ」
「それ故、本来ならば村人全員を斬殺する所であるが、二つの者を引き渡せばこの件は水に流すと仰っている。これは頭の温情である」
「ふうん、で、その温情とやらは何」
「まず、人質の狭山元の助を渡す事。それと、村人の陣三郎を引き渡す事だ」
(陣三郎さんを? まさか。彼の才能に気がついたのかな)
ノノはそう思ったが黙って使者の口上を聞いた。
「以上である。天母殿の返答を頂きたい」
天母様は一つ息を吐いて答えた。
「ふう、返答ね。それはね、こうよ。あっかんべー!」
使者は目を剥いて驚いている。
ノノはおかしくて吹き出してしまった。
天母様は続けた。
「あんた達バッカじゃないの。先ず元ちゃんはね」
「元ちゃん、とは?」
「ああ、元の助君はね、自分の意思でこっちに寝返ったのよ。あんな達の山賊行為が気に食わないってね。それと陣三郎君はこの村の住人よ。山賊の所に行きたいなんて言う訳ないじゃない」
「ならば、こちらの意見は受け入れないという事だな」
「当たり前でしょ。分かったらさっさと帰って。あんたがいると境内が穢れるわ」
「さようであるな。そちらの意図はよくわかった。首を洗って待っているがよい」
使者はそう言い残し、境内を出ていった。
天母様は珍しく機嫌の悪い声を出した。
「宮司さん、塩撒いといて」
そしてつぶやいた。
「さあ、忙しくなるわよ」
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