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第十五話 うんこまみれ
野武士の使者が来てからというもの、村人達全員は野武士の襲撃に備える為、早朝から暗くなるまで、毎日作業を続けた。
しかし、誰一人不満や愚痴を言う者はいなかった。むしろ楽しんでいた。
そして、野武士の見張りは『元ちゃん』こと『狭山元の助』が買って出た。
元ちゃんは元々野武士だったせいか、彼らが来る時間帯や手口を知っていたので、見張りとしては最適だった。
作業中、元ちゃんが合図をすると、村人達は一斉に作業を中断し、作っている罠を隠して神社に立てこもるという事を繰り返していた。
そんな日々が流れたある日。とうとうその日がやって来た。
カランカランカラン
仕掛けていた鳴子が一斉に鳴り出した。
それを合図に村の男たちは鳥居の前に陣形をとった。女、子供は本殿に避難した。
それと同時に石段の下の方から野武士達の悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあああ」「うわああ」「くせええええ」
実は、神社の周りにたくさんの落とし穴を作っていて、その中に糞便をたっぷり入れておいたのだ。
そこに落ちた野武士達はひとたまりもない。あっという間にウンコまみれになってしまった。しかも深さ二メートル近くある穴は簡単には這い上がれない。
穴に落ちなかった野武士にも試練が待っている。
頭上から一斉に堆肥が降ってきた。
辺り一面堆肥の甘い腐敗臭が充満し、そこにお百姓さん達が一斉に木の箱を投げつけた。
その箱は陣三郎君が作ったもので、隙間は全く無いが、ちょっとの衝撃ですぐ壊れる仕掛けになっている。
箱が野武士達の足元に落下して壊れ、その中から大量のスズメバチが出てきた。
スズメバチは堆肥の匂いにつられ、一斉に野武士達に襲いかかった。
こうなったら、逃げ回るしかない。中には自分から落とし穴に入ってウンコまみれになるものもいた。
「ぎゃあああ」
「痛えええ」
「わあああああ」
「くせええええ」
野武士達の断末魔にも近い悲鳴が聞こえてきた。
それでも勇敢にも鳥居に近づいてきた者もいた。
今度は鳥居の上から網が落ちてきて野武士達に覆いかぶさった。
身動きが取れなくなっている所に、陣形をとっていたお百姓さん達が襲いかかる。
お百姓さん達は大きなしゃもじの様な棒をもって野武士のお尻をめがけてパンパンと叩いた。
天母様に「なるべくお尻を狙うように」と言われていたからだ。……天母様の趣味?
その大きなしゃもじも陣三郎君が仕上げの鉋(かんな)掛けをしていたので、表面が滑らかだ。それ故、お尻を叩いた時のパーンという音が実によく響く。
しかもお百姓さん達は全く手加減しない。日頃の恨みだろうか。
パン、パパーン、パーン!
野武士達のお尻が叩かれる軽快な音「ひいいい」という悲鳴が境内にこだました。
野武士達はとうとう観念して逃げて行った。
そして天母様は撤収の合図をした。
「天母様、やったね」
ノノが言うと、天母様が答えた。
「そうね。でも、油断はできないわ」
「また来るかも知れないって事?」
「そう」
その時、違う方向から男の声が聞こえたきた。
「ほほほほ、やりますのう、天母様」
振り返ると大きな箱を背負った一人の年配の男が立っていた。
「あら、権(ごん)さん。来てたのね」
行商人だった。
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