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第十六話 行商人の権さん
行商人の権(ごん)さんはニコニコ笑いながら、天母様に話しかけた。
「なかなかやりますなあ、天母様」
「あら、権さん。来てたのね」
「誰一人殺さずに、敵の戦意だけを無くす。なかなか出来ませんぞ」
「そう。でも、これにはノノちゃんの知恵もあったのよ」
「ノノちゃん? そこのお子様の事ですか」
(ムッ!)
「この子はこう見えても十六歳なのよ」
「おや、そうでしたか。それは失礼いたしました」
ノノは軽く会釈をした。
権さんは再び天母様に話し始めた。
「しかし、見事でしたな」
「ありがとう。でも油断は出来ないわ」
「その件ですが、たぶん大丈夫でしょう」
「ん? それはどう言う意味」
「もう襲ってこないでしょうから」
「あら、どうして」
「エド・スミスの狙いがわかりました」
「そう。じゃ、立ち話もなんだから、縁側に行きましょう」
そして行商人の権さんは天母様達と縁側に回った。
行商人の権さんは大きな荷物を降ろして、縁側に腰を掛けた。
そしてお茶を啜りながら話し始めた。
「エド・スミスの狙いは陣三郎君だけです」
「使者の人も言ってたわね。でもどうして彼なの」
「欲しいのは彼の才能です」
(ああ、やっぱり)
ノノがそう思うと権さんはそれに気がついた。
「おや、ノノさんはもうお気づきの様ですな」
「うん、彼の木工の腕前は芸術級だよ」
「そう。エド・スミスはそれが欲しいのです」
「じゃ、彼が作ったものでひと儲けを企んでいるって事ね」
「そうです。しかも、それを外国に持っていこうとしている」
「外国に?」
「エド・スミスはこの国の工芸品には以前から目を付けていて、それでわざわざこの国に来た様なのです」
「そうだったの。でも、どうして陣三郎君に気がついたの?」
「それはあれです」
権さんは本殿を指さした。
「ああ、欄間ね」
「そうです」
「じゃ、欄間だけ持っていけばいいじゃない」
「いや。彼を連れて行って作らせた方が儲かると睨んだんでしょうな」
ノノは陣三郎君が牡丹の木彫りを作っていた時の事を思い出し、権さんに言った。
「陣三郎君はこの村から出たいなんて絶対に思わないよ」
「おや、それはどうしてですかな」
「好きな人がいるから」
「ほう、恋心ですか。なるほど、一理ありますな。まあ、とにかく、彼の身辺には気をつける事です」
そう言って、権さんは飲み干した湯呑を縁側に置いた。
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