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第十八話 エド・スミス
数日後、神社の石段の前に大きな牛車が付いた。
その牛車から出てきたのは、身長が六尺(約百八十センチ)以上ある大男だった。
エド・スミスだ。
頭からすっぽり布を被っているので顔は見えないが、日本人離れした頑丈で大きな体格をしていた。
ちなみに、落とし穴は全て埋めたので、もうウンコまみれになる事はない。
エド・スミスは境内に入ると真っ直ぐ本殿に入った。
そして、宮司さんに案内され、特別に用意した席についた。
エド・スミスが真ん中で、左右に従者が一人ずついる形になった。
それと同時に陣三郎君と天母様、ノノが入り、彼らの前に座った。
エド・スミスは被っている頭巾を取った。
噂通り金色の髪の毛に青いギョロギョロした瞳。それと高く大きな鼻が特徴的だった。
エド・スミスが独特の訛りのある日本語で話し始めた。
「此度はこの場を設けて頂き感謝する。私は陣三郎殿の才能を開花させたいと願いここにやって来た」
(なるほどその手で来たか)
それからエド・スミスは語り始めた。
日本の外に西洋があり、ここよりずっと優れた文明がある事。
日本の工芸品が非常に重宝されている事。
彼はそれを求めてこの日本に来た事。
(行商人の権さんが言っていた通りだ)
さらに彼は話し続けた。
西洋にはすぐれた工芸の技術があり、それを陣三郎君が使えば、もっと素晴らしい工芸品を作る事ができる事。
そして、一緒に西洋に行ってっみないかと説得を始めた。
生活は一生保証するとも言ってきた。
陣三郎君はそれを聞いた後、表情を変えずに答えた。
「おらはこの村が好きだ。工芸品とやらにも興味はねえ。あんたに付いていく気はねえだ」
エド・スミスは更に続けた。
「好きな人でもいるのかな?」
(まずい。その手を使ってきたか)
陣三郎君の言葉が詰まった。
エド・スミスが続けた。
「もし、好きな人がいるのなら、その人も一緒に連れて行ってもよい」
陣三郎君は少し沈黙したあと、懐から木の彫り物を出し、エド・スミスの前に置いた。
エド・スミスはそれを見て
「おう、素晴らしい」
と感嘆の声を上げた。
それは、陣三郎君の想い人『お福』にあげる為に作った木彫りの牡丹だった。
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