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第三話 馬鹿かおめえ
「私、この赤ちゃん絶対死なせないよ」
十兵衛は少し呆れた顔で尋ねた。
「死なせねえって、おめえ。何か手はあるんだか?」
「ううん、そうだなあ。あ、そうだ、十兵衛さん」
「ん、なんだ」
「牛はいる? おっぱいの出るやつ」
「牛か? ううん、確か八五郎んとこのが、この前仔っこ産んだなあ」
「うん、それだ。十兵衛さん、そこに案内して」
「別にいいだども、何でだ」
「牛乳あげるから」
「ギュウニュウ? 何だそれ」
この時代はまだ牛乳を飲む習慣が無いと言う事にノノは気が付いた。
「牛のおっぱいだよ。赤ちゃんにあげるんだよ」
それを聞いた十兵衛は顔を真っ赤にして怒り出した。
「ば、馬鹿かおめえ。牛の乳なんて人が飲めるか。大人をからかうのもたいがいにしろ」
「からかってないよ。これしか無いんだから。十兵衛さん、お願い。案内して」
「辞めだ。ガキの言う事に付き合ってらんねえ」
それを聞いていたお静さんが口を開いた。
「十兵衛さん。あげてみましょう、牛のおっぱい」
「お静、ええのか。牛だぞ。牛の乳だぞ」
「はい。でも他に方法が無いんですから」
十兵衛は少しの沈黙の後答えた。
「ああ、わかった。案内したる」
(良かった)
ノノは安心した。そしてお静さんに言った。
「ありがとう。じゃ、お静さんは赤ちゃんを連れて家に戻って下さい。そして火を起こして、きれいな鍋を用意しておいて下さい。それと桶に水を張っておいて下さい」
お静さんはうなずいた。
ノノは続けた。
「じゃ、十兵衛さん。案内して」
「ああ、ええだよ。付いてきな」
「あ、いや、あの。重ね重ね悪いんだけど……」
「ん? どうした」
「負んぶ、してください。時空酔いがまだ治ってなくて、真っ直ぐ歩けないんです」
「ん? そうか。なんかようわからんが、さっき派手にコケたしな。ええだよ。ほら」
十兵衛はそう言って、しゃがんでノノに背中を向けた。
「ありがとう」
ゴツゴツしているが、意外と筋肉質で大きな背中だった。
十兵衛はノノを負ぶって、月明かりの道を歩き出した。
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