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第六話 野武士
翌朝、ノノはざわざわと騒ぐ音で目が覚めた。
明かりの漏れてくる壁の隙間から話し声が聞こえて来た。
それはずいぶん威勢のいい男の声だった。
「何だお前ら、ホントに食いもんも何もねえのか」
十兵衛さんの声が続いて聞こえて来た。
「本当です、お武家様。この前ので最後なんです。だから今日は勘弁して下せえ」
「本当か? にしてはこの赤ん坊、ずいぶん血色がいいじゃねえか」
「あ、それは」
「ん? おなごか。よし、この赤ん坊を持って行く」
「そ、それだけは勘弁してくだせえ。まだ乳飲み子だ」
「だからいいじゃねえか。どうせお前らこいつを食わせられねえんだろう。だったら俺たちが育ててやるって言ってんだよ」
するともう一人の男の声がした。
「まあ、年頃になったら遊郭に売っちまうんだけどな。それに女は色々使い道があるからな。ヒヒヒッ」
「おねげえです。それだけは、それだけは勘弁してくだせえ」
「うるせえ」
ドカッ!
すごい音がした。たぶん十兵衛さんが飛ばされたのだろう。
お静さんの悲鳴も聞こえる。
ノノの堪忍袋の緒が切れた。
(何がお武家様だ)
ノノは急いで木戸に駆け寄り、勢い良く開けた。
バンッ!
勢いが良すぎたのか、木戸が外れて倒れた。
ボテッ
(あれ?)
男達がノノに気付いた。
「何だ、この妙なガキは」
ノノは二人の男の姿を見た。薄汚れた着物を着て、腰に刀を差している。恐らく野武士だろう。
ノノは気を取り直して叫んだ。
「おい、赤ちゃんを返せ。それは十兵衛さんとお静さんの子だ」
赤ちゃんを抱えた野武士がニヤニヤしながらノノに近づいてきた。
「おいおい、ちゃんとした躾を受けてねえ様だな」
と言って、刀に手をかけた。
次の瞬間、ノノは素早く男の体を駆け上がり肩車の姿勢になり、男の顎をつかんで思いっきり上に上げた。
グキッ!
鈍い音がなり、男はその場に倒れた。
もう一人の男は
「何だ、このガキ。くのいちか」
と言って刀を抜き、振り下ろした。
ノノはそれをヒラリとかわし、踵落としで手の甲を打ち付けた。
男は刀を落し、殺気を感じたのか、背を向けて逃げて行った。
赤ちゃんは倒れた野武士がクッションになり、無事だった。ノノは泣いている赤ちゃんを拾い、お静さんに渡した。
お静さんは安心したようだったが、十兵衛さんの表情は険しかった。
「ノノちゃん。なんて事してくれただ」
意外な言葉にノノはキョトンとした。
「ああ、木戸ならすいません。直します」
「違うだ。あいつらきっと仕返しに来る」
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