第九話 野武士vs天母様

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第九話 野武士vs天母様

 翌日、村人全員が神社に集められた。  女子供も合わせて五十人位だろうか。  天母様は村人に 「これから野武士と戦います」  と言うとどよめきがおきた。  天母様は怯まずに続けた。 「奴らのせいで私達の生活は厳しくなる一方です」  村人達はうなずいた。 「このままでは、私達は飢え死にしてしまいます」  そう言って天母様はこれからの作戦を伝えた。  そして最後に付け加えた。 「皆さん、どうか力を貸して下さい。この村の未来の為です」  そう言って天母様は頭を下げた。  村人から口々に声が聞こえた。 「このままじゃ確かに飢え死にだな」 「天母様が頭下げてるんだ」 「協力するしかないべ」  村人達の意見はまとまった。  その日から神社籠城作戦が開始された。  その後天母様はノノを連れて土蔵に行った。  人質の野武士と話をする為だが、なぜかノノは巫女服を着せられた。 「ねえ天母様。何で私も巫女なの?」 「かわいいからよ」 「それだけ?」 「うん、それだけ」 「なにそれ」  そんな事を話しながら土蔵に入ると、意外と大人しくしている野武士がいた。手足を縛られて観念したのだろうか。  天母様は野武士の前に腰をおろした。 「調子はどお? 野武士さん」 「見りゃかるだろ。最悪だ」 「そお。それにしては顔色いいじゃない」 「ん? ああ、なるほど。ヘヘっ、天母様の介錯たぁ、俺も出世したんだな」 「介錯? 何言ってんの。あんたなんか殺しゃしないわよ」 「じゃ、何だい」 「ちょっと一杯付き合って欲しくてね」 「は?」  そう言って、天母様は袂からひょうたんを出した。 「本当は神様にあげる貴重な酒を持って来たのよ。有り難いでしょ」 「ケッ、訳わかんねえな。何で俺にそんな事すんだ」 「まあ、あなたには色々聞きたい事があるしね」 「ははあ、なるほど読めたぜ。その酒に一服盛ってるって寸法だな」 「ったく、疑り深いなあ。じゃ、ノノちゃん、ちょっと呑んで見て」  ノノは慌てて答えた。 「わ、私はダメです。未成年なんで」 「みせいねん?」 「あ、そうか。私の時代は二十歳未満はお酒飲んじゃいけない決まりなんです」 「あっ」と天母様は一瞬表情を変えた。 「じゃ、しょうがないなァ」  そう言って、天母様は枡にお酒をあけて一口飲んだ。  野武士がゴクリとツバを飲んだ音が聞こえた。  そして天母様はその枡を野武士の口元に押し当てた。 「飲みな。喉乾いてるんでしょう」  野武士は何も言わずに飲み始め、喉を鳴らしながらあっという間に飲み干した。 「いい飲みっぷりじゃない」 「ああ、生き返ったぜ。ありがとよ。ところで、そのガキは何だ。見覚えがあるんだが」 「忘れたのかい。あんたを打ちのめしたノノちゃんだよ」 「おお、あのくのいちか。見事だったぞ。ありゃ何だ」  いくら野武士でも武士は武士。武術に関しては真摯な様だ。  ノノは答えた。 「あれは体術。護身術だよ」 「ほう、変った技もあったもんだ」  天母様が付け加えた。 「この子は私達と違う世界から来た様でね。色々知ってるから連れて来たんだ」 「ほう、こんな小っこいガキがか?」 「ち、小っこくないよ!」  ムッとしたノノを天母様が制した。 「小さいと言われるのがどうやら嫌いらしいから、少し気を使ってくれない」 「ケッ!」  舌打ちをした野武士の顔を覗いて、天母様が言った。 「じゃ、色々教えてもらおうかな」
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